一章 思い出して <Ⅳ>失踪
校舎脇の駐輪場に自転車を置き、
「あれ?
「どこ行った。あの野郎!」
いつの間に消えたんだ。
遠い目をした天然。猫を見ると笑う。
昼休みを図書室で暮らす変わり者。高校生なら部活だと、入学以来毎日言い聞かせたら、やっと美術部に入ったが(なんで文化系なんだ)上手くやってるんだろうか。
幼稚園の頃からあいつは何も変わらない。頭は冴えてるのに、いつも使いどころが間違っている。
「まさか、また転んでるんじゃないよねえ? 青深、どうする?」
「心配することないって。あいつは昔からこれなんだ。また猫でも見かけたんだろ。どうせ後から来るよ」
「でも。さっき不思議なこと言ってたし……」
陽蕗子は時雨の現実離れしたところが好きだった。
この子と一緒にいればトトロにも会えそうな気がする。でもあまりにもマイペース過ぎてハラハラさせられる。どうして世の中の視線があそこまで気にならないの。気にしていないのか、はじめからセンサーがないのか。
あの子は私が守ってあげなくては。
陽蕗子の思い詰めた眼差しに青深が苦笑した。
「分かった! 探してくるから、先に行け」
「あたしも行く!」
「なら、急ごう」
二人は、いま来た
「
二階の窓から、担任の
大きな顔の中央寄りに、愛くるしい二重の瞳が
肩からクールカットの頭が生えた
「権平先生! お早うございます!」
陽蕗子が小鳥のように頬笑む。
「お早うございます」
青深が青年将校のような敬礼をした。
「桐原が具合が悪くなったんですよ。いま向こうで休んでるから、二人で保健室に連れて行きます」
青深はすらすらと嘘を言う。
「おお、そうか。具合が悪いなら無理をさせるな。すぐ行くから、俺が行くまで休ませといてくれ」
「はあい、待ってますう」
陽蕗子がひらひらと手を振ると、権平もぶんぶん手を振り返し窓の中に消えた。
窓越しにちらと艶ややかな黒髪の後ろ姿が見えた。
権平がそちらに
「転校生かな?」
青深が呟いた。
「髪の長い子だったね」
陽蕗子が答える。
「もしかしたら、
「そうかも! やっと出てこれたんだ! 良かったねえ」
「よし。この隙に、時雨と
「口裏って……。時雨は大丈夫なの?」
青深が横目でせせら笑った。
「賭けるか?」
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