一章 思い出して <Ⅱ> 二度目
「おはようございまーす!」
この道を毎朝叫びながら疾走してくる自転車は、
顔馴染みのウォーキングのおじちゃん、おばちゃんたちが、孫を愛しむ眼差しで手を振ってくれる。眠たげに流れる
先を行く二人のセーラーカラーが風に
埴輪山高校の制服は、
「ねえ、知ってるう? 学校の前のコンビニに、お化けが出たんだってえ!」
「知らないい! なにそれえ?」
自転車三台が縦一列で走りながら会話を交わそうとすれば、全力シャウトになる。
「
爆笑。
「怖くねええ!」
先頭の
「近所の貧乏な人だよ、きっとお!」
あたしも青深に同調する。
「えええ、そうかなあ? だって、牛乳だよお? あたし、メッチャ怖かったあ!」
「そこかよお?」
海に近いこの街には、ひと昔前まで一面の菜の花畑が広がっていたらしい。
今では妙に真っ平らな住宅地が一面に広がっている。
ただ、今でも街の北東側の丘陵には、小さな田畑が点在し、古墳時代からあるという神社と、
橋のたもとでサイクリングロードを折れ、急坂を一気に下ると我が
青深、陽蕗子、あたしの順に校門を抜ける。
毎朝この時刻に登校する常連たちの群れに混ざると、全員が一団となってペダルを踏み込む。タイムリミットはあと5分。
校門から始まる長い
前髪を初秋の風の
左右から差しのべられた
朝日に暖められた土の匂いがする。
テニスコートの向こうから金木犀の香りが誘いかける。
硬質な青さを秘めた空をふりあおいで、胸一杯に深呼吸していたら、周りに誰もいないことに気づいた。校舎を目指す集団の最後尾が遠くに見える。
――しまった。遅刻しそうなんだっけ。
昨日も青深に「真剣に生きろ」と言われたばかりだ。また
行く手では、並木が
ぽかりと開けた円形のスペースを、小菊や
そして、この小庭園の持ち主のような顔をして、赤い屋根の小さな西洋館が
クリーム色の
県立高校の校庭には明らかにそぐわない景色だが、これには諸々の事情があった。
昨年、この市内の
それで壊すのはもったいないと県が引き取って、敷地の余っている県立高校(うちです)に移築したんだって。工事の大半は夏休みに済んで、落成式は昨日のことだった。
移築のついでに傷んだ部分を修理したせいで、見た目は新築である。ガラスはピカピカ。壁はツヤツヤ。木の香とペンキの匂いが鼻につく。由緒はどこに行った。
お洒落で可愛いって、みんなは喜んでるけど、あたしはなんとなくこの家が気にくわない。
自転車が
――違和感。
自分の影が変。あたしの頭、でか過ぎる。
肩になにかが乗っている。
毛並みの感触が首筋にしな垂れかかる。あいつの声が耳たぶの後ろで
――しぃ ぐぅ れぇ
――思い出してよ。ねえ 思い出して。
きみが殺した僕を 思い出して。
世界が暗転。あたしは目を閉じた。
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