カワイとナイトウ

@daridari

第1駄 ウンの話

「なあ、ナイトウ」


「どうした。カワイ」


「例えば、ある晴れた春の日に、ぽかぽかでルンルンなナイトウさんが呑気に散歩をしていたとする」


「はあ」


「『車校最近行ってねえや』『今度提出する谷口教授のレポートはいつ締め切りだったっけ』とかそういうメンドクサイことすべてをクシャミひとつで頭から追い払ったナイトウさんは、春の日差しの力を借りてその空いたスペースを『ああ、スズメさん可愛いなあ』とかなんかそんな感じのふわふわした幸せなもので埋めていくわけだ」


「本題に入れ」


「まあ、あわてるな。すると、突然、中学高校と卓球を続けていたナイトウさんの国宝級と言っても過言ではないスーパー動体視力が目の前を上から下へとムーブする白っぽい物体を知覚したわけだ」


「んで」


「ナイトウさんはつんのめりそうになりながらも歩みを止めて下を向く。すると、つま先から一寸ほど先に黄色いつぶつぶの浮いた白い物体が落ちていたわけだ。ナイトウさんはその類まr......」


「鳥の糞か」


「......そう。なんと、カラスかハトかスズメさんかはわからないが、恐れ多いことにナイトウさんの散歩ルート上、しかも、ナイトウさんの歩くスピードがあと秒速5センチメートルでも早ければ、彼の頭の上に落ちていても何ら不思議ではないようなそんなピンポイントでの狙撃をしてきたわけだ」


「ほお」


「そこでナイトウに質問なんだが」


「やっとか」


「鳥の糞が目の前に落ちた。だが自分にはかからなかった。

そんな時、ナイトウは自分が運が良いと感じるか、それとも不運だと感じるのか一体どっちなんだ」


「それは『運が良い』だろ。だって何だかんだ自分に被害は出なかったわけだし」


「そうか。俺はその時『ツイてないなあ』って思ったんだ」


「それは何故に」


「だって、本当に運が良ければそもそも鳥の糞は目の前にも落ちてこなかったんじゃないかって思ってな。自分にはかからなくても鳥の糞を見たことで、ウキウキした気分も冷めてしまったし、冷や汗も掻いた」


「なるほど。それは災難だったな。ちなみに谷口教授のレポート提出の締め切りは明日だぞ」


「マジか。危うく出しそびれるところだったわ。サンクス」

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