35, The Murderer

 そのお茶は、鉄の味がした。

そして、下に口内に喉に何かが当たったと思った瞬間ピリピリとした痛みが走り、鉄の味が濃くなっていくのを感じた。

思わず口の中に含んでいたものを床に吐き出す。

そして恐る恐る指で、口の中の痛みが走った場所、その1つに触れる。

再びピリピリとした痛みが走る。

指には、鈍い赤色の血がついていた。

「え・・・」

 手に持ったままのカップの中身をよく見てみる。

 お茶の中に大小様々な金属片が浮かんでいるのが目に入った。

「一体何を・・」

 マリーさんの方へ向き直りそう言葉を続けようとした瞬間。

 マリーさんが私の胸ぐらをつかまれた。

「イファも・・・そしてルドヴィカ姉さんも・・あんたが殺したんでしょ」

「違・・・」

「この人殺し」

「きゃっ」

 マリーさんに胸ぐらを掴んで投げ飛ばされた。

 身体に鈍い痛みを感じながら身体を起こす。

「何するんですか」

 怒りをにじませながら、マリーさんの方へ向き直る。

「私はそんなことしてないっ。それに証拠でもあるんですか」

 憎々しげに私を睨みつけるマリーさん。

「そんなものは必要ない」

 ベッドの脇に置かれたルドヴィカさんの鎧と鞘に収められた剣。

 鞘から、研がれたばかりなのだろう。マリーさんがその銀色に輝く剣身を取り出した。

「貴方が来なければルドヴィカ姉さまは、そしてイファも死ななかった。貴方が来て余計なことをしたから姉さまは命を落とした。それだけのこと。」

 剣先が私に向けられる。

 ジリジリと近づいてくるそれから逃げるように後ずさりをすると、何かに背中がぶつかる。

 そして後ろから肩を掴まれる。

「何を・・」

「姉さまの敵」

 氷のように冷たく鋭いローザさんの声。

 首だけで後ろを向くと、いつも通り無表情のローザさんの顔。ただその目は明確な殺意を湛えていた。

「だ、だめですわこんなこと」

 エミリアさんの震えた声。

「黙りなさい。エミリア。」

 マリーさんがまるで妹をたしなめるようにエミリアさんにそう言った。

「間違っていますこんなこと。今こそ私達全員が手を取り合ってこの困難な状況を乗り越えるべきですわ。」

「そう、私達姉妹は今こそ協力しなければいけないの。でないと」

 剣先で私を指し示す。

「このよそ者にまた私達姉妹の誰かが殺されてしまうかもしれないのよ。そして、お姉様の敵を取らないといけないの。でないと、次に殺されるのは貴方かも知れないのよ、エミリア」

「あかりさんはそんな人じゃありませんっ・・」

 エミリアさんの必死な叫び声。

「貴方もこれにたぶらかされたのね、エミリア。目を覚ましなさい。いいえ、私が目を覚まさせてあげる。」

「姉さま、本当に辞めてください・・」

私に向き直り、剣を構える。

「死ねぇエエエエエエエエぇええ」

 叫び声とともにマリーさんが私に向かって飛びかかってくる。

 必死にローザさんを振りほどこうとするも、しっかりと肩を捕まれて動けない。

 ちょうどその時、外からドアが開かれた。

「あかりさまっ」

 血相を変えたコルデリアちゃんが部屋に入ってくる。

 そしてローザさんに掴まれた私を思いっきり突き飛ばした。

「ぁっ・・」

「やめ・・ろ・・」

 その小柄さから想像できなほどの衝撃に、私を抑える手が解け床に倒れ込む。

 剣先は背の低いコルデリアちゃんの頭をかすめて・・・

 ・・ローザさんの喉を裂いた。鮮血が吹き出す。

「ローザっ」

 血で、ローザさんの血で赤く染まった剣を投げ出し、マリーさんは彼女に駆け寄る。

 抱き起こされたローザさんは虚ろな瞳を私の方へ向けた。

「しっかりしなさい、ローザ、ローザ」

 マリーさんに肩を揺らされながら、傷ついた喉元を、ゆっくりとその手で抑えようとして・・全身の力がふっと抜けた。

「ローザ、ローザ、」

 何度も肩を揺らされても、もう反応を返してくれることはなかった。

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