34, Eternal Sleep of The Eldest Sister

 空気が重い。

 無言でじっと私の方を見つめてくるマリーさんとローザさん。

 ローザさんは普段通りの無表情なものの、マリーさんの視線には私への敵意がひしひしと伝わってくる

そしてそんな様子にオロオロとうろたえるエミリアさん。

コルデリアちゃんが食事を配膳してくれて、昼食が始まる。

それぞれ無言で食器を手に取り、料理を口へ運んでいく。

ここ最近毎日食べているコルデリアちゃんの美味しいご飯。

これまでの人生の中で1番気の重いお昼ごはんだった。

「ねぇ・・あんた・・」

「はい」

 マリーさんの不機嫌そうな、今にも怒鳴りだしそうな声に内心どきどきしながらも、平静を装って答える。

「このあと私たちについてきて。」

「何処へ・・」

「いいから」

 声に苛立ちの色が濃くなり、視線が鋭くなる。

「・・わかり・・ました・・」

 ローザさんは無表情のまま何も言わない。

 マリーさんは私のその言葉を聞くと、投げ出すように食器をテーブルに置く。

「わかったなら、早く食べなさい。」

 顔に苛立ちが出るのをなんとかこらえる。

 素直に従うのも癪だったので、これみよがしに食べるペースを落とし、ゆっくりと食べ終えた。

「ごちそうさまでした。」

 手を合わせながら1人そう言う。

「・・ついてきなさい」

 大きな音を立ててマリーさんが席を立ち、ドアの方へ向かっていく。

 その後を慌てて追いかけた。

 ドアを開ける直前にマリーさんがこちらを振り向いた。

 目が合う。

「ふん」

 不機嫌そうにすぐ目をそらされる。

 その目は憎しみに溢れているように見えた。

 後片付けをするコルデリアちゃんを1人食堂に残し、マリーさんとローザさんに挟まれるように、そしてエミリアさんに不安そうに見守られながらして私は3階へ連れて行かれる。

「こっちに来なさい」

 一つ一つの部屋が大きいためにどうしてもひろくなってしまう壁面に絵画が描けられていたり彫刻が置かれていたりする、豪奢な廊下。

 その中の1つのドアを開き、その中へと連れ込まれる。

 最後に入ったエミリアさんがそっとドアを閉めた。

 王子の部屋ほどではないものの、贅を尽くして作られた広い部屋の中。

 天井から吊るされたシャンデリアのあかりはつけられておらず、窓のカーテンも締め切られている。

部屋のあちこちに置かれたロウソクのオレンジ色の光が、部屋をぼんやりと照らし出していた。

「ルドヴィカさん・・・」

 豪奢な天蓋付きのベッド。そこでルドヴィカさんが横になっているのが目に入る。

 目をさましてくれるのではないかという淡い期待が何処かにあったと思う。

私は思わずその顔に手を伸ばした。

「っ・・」

 指先に、まるでフライパンで焼く前のお肉や魚のようなひんやりとした感触が伝わってきて慌てて手を離す。

「あ・・・ぁ・・あ」

 ベッドから離れるように後ろ足で何歩か後ずさる途中、足が絡まり、盛大に尻もちをついてしまった。

 頭のなかは真っ白で、わたしはその痛みを感じることができなかった。

 ルドヴィカさんの顔にはもう血の気がない。そして人の体温というものがもうそこにはなかった。

「ショックなのはわかってるわ。ここに座りなさい。」

 マリーさんが椅子を勧めてくれた。

 気遣うような言葉を描けてくれたその刺々しい声に、ショックのあまり私は特段何も感じることなく、なんとか足に力をいれて立ち上がると、部屋の内装に似合わず簡素な作りのその椅子に腰を下ろす。

「ありがとうございます。」

 古いのか、私の体重にその椅子は大きく軋んだ。

 マリーさんはベットサイドに置かれた机へ向かうと、ティーポットからカップにお茶を注ぐ。

 そばに置かれたルドヴィカさんの、昨日私とコルデリアちゃんが森から持って帰ってきた鎧と剣が目に入った。

 剣はマリーさんか誰かが手入れしたのだろう。研がれ、磨かれ、その表面はまるで鏡のように部屋の様子を映し出していた。

 お茶を入れるマリーさんの後ろ姿、簡素な椅子に腰掛ける私、口をぎゅっと結びながら無表情を続けているローザさん、不安そうにオロオロとしているエミリアさん。

「これでものんでおちつきなさい」

 白々しいマリーさんの声。

 お茶を入れたカップをマリーさんに強引に手渡された。

 マリーさんとローザさんがじっと私の手元、ティーカップを見つめる。

飲まないと、思考力が落ちた頭で私はそう思った。

鉄の匂いがするそのお茶を口に含む。その瞬間ローザさんが口元を少し緩めるのを、そしてマリーさんが悪魔のような笑みを顔に浮かべるのが目に入った。

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