33, The Record

 コルデリアちゃんが配膳をはじめる。

「マリー姉様とローザ姉様はお部屋で食事を取られるそうです。」

「畏まりました。」

 机に座っているのは私とエミリアさんだけ。

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 私が来る前はこの机にたくさん人が座っていたというのに。

「あの・・・ルドヴィカさんの容態は・・」

 エミリアさんはじっと私の目を見つめると・・・

「あかりさんに聞きたいことがあります。」

 そう沈んだ声で切り出した。

 目線は私ではなく机を向いている。

「ルドヴィカ姉様は・・・どうしてあのような事になってしまわれたのですか?」

 消え入りそうな声。

 不安8割、私への気遣いが1割、そして疑惑が1割。

「ありのままのことを話します。」

 場の空気が重い。

 なんとか説明の言葉を紡ぎ出した。



 できるだけありのままをエミリアさんに伝えた。

「城の皆のために電気を復活させようとしていらしたので、その願いを叶えようと・・」

 一度ルドヴィカさんを城へ連れ帰ったあと、再び私とそしてコルデリアちゃんが城をでていったことについても伝える。

 そばにいたコルデリアちゃんに確認を取りながら出来る限りのことを伝えていった。

「そうでしたか・・」

 どことなく安堵の色が混じったエミリアさんの声。

 エミリアさんの疑念・・・何に関してかはあまり想像したくないが・・・が晴れたようで私もホッとした。

「お姉さま方にも伝えておきますね。」

 まだ、事情をコルデリアちゃん以外には伝えていな買ったことに気づく。

「ありがとう、ございます。」

「それでは、私は部屋に戻ります」

 手元の料理にはほとんど手を付けずに席を立つ。

部屋をでて行くエミリアさんを、少し驚きながら見送った。

 広いテーブルに私1人ぽつんと残される。

「お茶のおかわりはいかがいですか?」

「ありがとう。」

 天井からぶら下げられた豪奢なシャンデリアが照らす、広い部屋の中。その大きな長テーブルの誕生日席に1人ぽつんと座る私と、その脇に控えるコルデリアちゃん。

 この城には私達2人だけしかいないような感慨にとらわれる。

 ほんとうはそんなこと無いのだけれど。

 ゆっくりと一緒に作った朝ごはんを黙々と食べた。

「このあとどうされますか?」

「図書室で・・・記録を残そうと思うの。」

「記録・・・ですか?」

「貴方たちがここにいたということ、そしてここで私が行ったことについて。」

「畏まりました。」

 一緒に後片付けをする。

 そして城の作業をすると言うコルデリアちゃんと別れ、図書室へと向かう。

 ロビーへでて、階段を上がり2階へ。その目の前にある巨大な白い扉を開く。

 エミリアさんがいるかと思ったけれど、部屋の中は真っ暗でどうやらだれもいないようだった。

 ドアの横を探り、電気をつける。

 部屋の中央にグランドピアノ、そして広大な空間の壁面すべてが本棚になっていて、本や巻物、紙を何枚かまとめた簡易なメモなど隙間なく並べられている。

 そして部屋のあちこちには過去の王子たちが作ったという機械の数々が置かれている。

 まだ何も書かれていない、紙ととペン、そしてインクを見つけ、部屋の中央にある机へ持っていく。

 私がこの城へ来る前のこと、城に来るきっかけとなった出来事、そして城に来手からの出来事をできるだけ詳しく記載していく。

 誰も読まないと思うけれど、それでも私が、私達がここにいたということを何処かに残したかった。

 最初の頃のコルデリアちゃんのこと、イファちゃんのこと、エミリアさんとこの図書室のこと、ルドヴィカさんの思い、ルドヴィカさんが感電したこと、コルデリアちゃんの頑張りや優しさについて。

 書いていくうちに筆画の理、一心不乱に夢中で書き留めていった。

 一通り終わりが見えてきた頃、ノックの音が聞こえ、ドアが開かれる。

「失礼します。」

 入り口の方へを向くとコルデリアちゃんがそこにいた。

 机に座る私を見つけこちらに向かってくる。

「そろそろ昼食のお時間となりますがいかがいたしますか?」

「もうそんな時間?ごめん、少しだけ待っててくれないかな?」

 ペンを動かすペースを上げる。

「かしこまりました。」

 終わりまで一気に書き上げる。

 この部屋にある、多くの記録のたぐいがそうであるように紙の束に穴を開け、紐で綴じる。

 そして表紙の紙を糊でつける。

 タイトルどうしようか。

 少し悩んだ末にこうつけた

“暁に手を伸ばして”

 今朝コルデリアちゃんと城の外でみた朝日が、暁がきれいだったから。

 ペンなどを元の場所へ戻す。

「おまたせ」

 もしかしたらエミリアさんが読むかもしれないし、誰も読まないかもしれない。

 もしかしたら今はここにいない他の誰かが読むかもしれないし、読まないかもしれない。

 正直、これを私は誰かに読んでほしいと思っているのかどうかはわからない。

 けれどこんなことがあった、ということを記録として残しておきたいと思った。

 出来上がった本を机の上においたまま席を立つ。

 次誰かがこの図書室を訪れた時真っ先に目に入るのはこの机の上だろうから。

 コルデリアちゃんに案内され、食堂に向かった。

 その豪奢な作りのドアをコルデリアちゃんを開ける。

 そこにはエミリアさんと・・・

 そしてローザさんとマリーさんがいた。

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