Day 6

32, Daydream

 幼稚園の先生、お母さん、幼稚園の頃通った学習塾の先生。

 小学校5年生のときの担任の先生、中学校の進路指導の先生、高校の体育科の先生。

 1人1人、私の前に出てきては何かを言い残し、忽然と消えていく。

 お前にそんなことはできない、諦めろ。そんなことをして、将来なんになる。

 そんな風に言われているような気がした。

 場面がこの城へ切り替わる

ローザさん、マリーさん。

 ヨソモノ

 ハヤクデテイケ

 2人がいる辺りに靄のようなものがかかる

イファちゃん、ルドヴィカさん。

 シッテイタノニ、ナンデオシエテクレナカッタノ

ナンデタスケテクレナカッタノ

再び2人がいる辺りに靄のようなものがかかる

コルデリアちゃん、エミリアさん

何も言わずにこちらを見つめる、不安そうな目つき。

声をかけようとした瞬間やはり靄に包まれ見えなくなってしまう。

唐突に誰かが現れ、わたしにきつい言葉を投げかける。そして私が何か言う前に消えてしまう。

段々ペースが早くなっていき・・・・私は飛び起きた。

 いつの間にか眠ってしまったらしい。

 外はまだ暗いようだった。

「はぁ・・はぁ・・」

 動悸が荒い。

 真っ白なネグリジェが、汗で濡れた肌にピタリとくっついて気持ちが悪い。

 ベッドサイド置かれていた水指からコップに水を注ぎ、一気に飲み干す。

「ふぅ・・」

 額の汗を拭う。

 私はどうすればいいのだろう。

 このあとの2日間も、そして元の世界に帰ったあとも。

 イファちゃんは、ルドヴィカさんは、私のことをどう思っていたのだろうか。

 恨んでいるだろうか。怒っているだろうか。それとも私の行動を受け入れてくれてるのだろうか。そして、それに対して私は何が出来るのだろう。

マリーさん、ローザさんは私のことをどう思っているのだろうか。

 エミリアさんは、コルデリアちゃんは・・・

「コルデリアちゃん・・」

 この世界で出会った少女のこと

 仲良く慣れたのに、あと2日間で離れ離れになってしまう。

「そんなの嫌だよ。」

 ベットから飛び起きる。

 クローゼットを漁り、新しい王子服を取り出す。

 外がうっすらと明るくなってくる。

 ネグリジェを脱ぎ、自分でそれに着替える。

 1人で部屋を出て、コルデリアちゃんの部屋に向かいかけるも、途中で厨房に目的地を変える。なんとなく、もうお仕事をしていそうな気がした。

 1階に降り、厨房へ。

 火にかけられた鍋が煮え、いい匂いがしている。ただそこにコルデリアちゃんの姿はない。

 奥の方に簡素な木の扉があるのが目に入る。

 古そうだけれどきちんと手入れがされたそれを押し開けると、そこにはこじんまりとした畑と、牧草地が広がっていた。

「コルデリアちゃん!」

「あかり様っ!?」

 家畜の世話をしていたコルデリアちゃんが驚いたようにこちらを振り向く。

「何か御用ですか?」

「目が覚めちゃったから・・コルデリアちゃんに会いたいなって・・」

「あかり様・・」

 恥ずかしそうな顔をしたコルデリアちゃんを思わずギュッと抱きしめる。

「あと少ししか一緒にいられないから。」

 コルデリアちゃんの腕の力が強くなったような気がした。

 世話の続きを、続けて畑の世話をしている様子を横から眺める。

 本当は手伝うことができたらいいのだけれど、足手まといにしかならないだろう。

 テキパキと作業を片付けていくのを感心しながら眺めていた。

「お待たせいたしませいた。」

「全然待ってないよ。それに、コルデリアちゃんなんでも出来るね。」

「そんなことないですよ。」

 厨房へ戻る。

 収穫したばかりの野菜を机の上に置くと、私の方を向き直る。

「よろしければ食堂のほうに行かれますか?」

「ここにいる。少しでもコルデリアちゃんと一緒にいたいから。」

「かしこまり・・・ました・・・」

 料理だと少し手伝うことができた。

 朝ごはんの用意と昼ごはんと夜ご飯の下ごしらえをする。

 こちらでもテキパキと作業を勧めていくコルデリアちゃんに惚れ惚れしながら横で野菜を刻んでいく。

「一緒のご飯作るのも楽しいよね。」

「はいっ」

 調理を済ませ、お皿に盛り付ける。

「・・そろそろ他の姫様が参りますので、食堂の方でお待ちいただけますか?」

「わかった。」

 厨房から食堂へ戻る。

 いつもの席に座ると、コルデリアちゃんがお茶を入れてくれた。

「ありがとう。」

「とんでもございません。コルデリアはあかり様のメイドですから。」

 一礼をしてコルデリアちゃんが厨房に戻る。

 天井からぶら下げられた豪奢なシャンデリアが、煌々とあかりをたたえている。

 廊下に通じる大きなドアが開く。そしてエミリアさんが入ってきた。

「おはようございます。」

 そう声をかけると、エミリアさんが俯いた顔を上げてこちらに向き直る。

「・・おはよう・・ございます。」

 いつもどおりの笑顔はそこにはなく・・・

 暗く沈んだ顔がそこにあった。

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