29, Decision in The Past
「姉妹全員の取りまとめをするのが私の役目だと言うのに。イファにはなんと言っていいものか・・・他の皆、とくにマリーとコルデリアには申し訳ないといつも思っている。あの2人どうも折り合いが悪いのをなんとかしようとは思っているのだが、なかなかうまくいかない。私はダメな姉だ。」
「そんなことないですよ。そんな風に普段から妹たちに気をかけていていいお姉さんだと思います。」
「ありがとう。そう言ってくれるだけで励みになる。」
コルデリアちゃんとマリーさんの中は2人性格、特にマリーさんの性格的にもうどうしようもない気はするけれど。
しばらくして、幅の広い大きな河川と石造りの立派な橋が見えてきた。
渡る人がいなくなった、街から城へ続く道の始まりにあるその橋は、まだなおその威容をたたえていた。
「さっきの図をもう一度みせてくれるか?」
コルデリアちゃんが持たせてくれた鞄の中から、エミリアさんの見つけてくれた資料を取り出すと、ルドヴィカさんに手渡す。
「城が向こうにある。ということは我々が目指す小屋はこっちにあるのだろう。」
その図には、川の城側。この橋を渡る手前で左へ曲がって、上流側にしばらく進んだところに小屋が描き込まれていた。
「そうですね。」
手渡された資料をかばんへしまう。
そして道から外れ、川沿いに小屋へ向かって進んでいった。
豊富な、透き通った水を抱えた川は緩やかに下流に向かって流れているようだった。
足の甲にも届かない位の背の低い草が地面を覆っている。
木々の葉の隙間から漏れてくる陽の光が心地よい。
「あかりには兄弟はいるのか?」
「私は一人っ子なのでいないです。」
「寂しいと思ったことはないか?」
「父も母もいますし、友だちもいるので、そう思ったことは無いですね。」
「ならよかった。そうか、そういうのが本来あるべき姿なのだろう。」
私達以外に誰もいない世界。
目を楽しませてくれるが人が中を移動する妨げにならない、程よく自然豊かな森の中をルドヴィカさんと2人、進んでいく。
右手では河川が穏やかに流れている。
絶対に城では見せないだろうな。
再び悲しそうな表情を見てそう思った。
「姉として、私は妹たちが、マリー、ローザ、エミリア、イファ、そしてコルデリアを幸せにする義務がある。私の力が及ばないばかりに、この国に私たち姉妹以外の人間は、1週間だけこの国に滞在してくれる君を除いて、もうだれもいない。」
途中から悲痛そうな表情に変わる。
どう考えてもそれはルドヴィカさん1人が背負い込むには多すぎる責で・・・
「ルドヴィカさんのせいではないですよ。」
自分のせいだと思い込む彼女の心を少しでも軽くできたら、そう思いながらそう声をかける。
「いや、これは私のせいだ。なぜなら私は過去に、この状況を避ける術を持っていたのだ。」
その声は段々と悲痛さを増していく。
乏しい語彙力で必死に慰めの言葉を考えていた私は、続く言葉を聞いて完全に言葉を失った。
「幼い私はそのことを理解できていなかったのだ。目先のことに囚われ、大局が見えていなかったのだ。今のあかりと同じくらいの年だった。何故あの時私はあの男のことを受け入れなかったのか?この世界で最も若い男だったのに、自分より何倍も年を取っていたからか?」
「え・・・?」
「なかなか男児を授かれず、とうとう逃げ出したあの忌々しい魔女、自分の母親に責任を感じなかったのか、まだ10歳にもなってない妹たちの未来を考えることはできなかったのか私はっ」
あまりの声量に周りの木々が震える。
思わず方が震え、歩みを止めてしまう。
「すまない・・」
「いえ、気にしないでください。」
過去のルドヴィカさんの、しかも今の私と同じくらいの年の頃に背負わされた、あまりに大きな責任に思わず身震いする。
「その・・」
「あれだろう。小屋が見えてきたぞ。」
それでも何か言わなくてはと思うも、先程までとは打って変わって普段通りの調子のルドヴィカさん声に遮られた。
しっかりとした作りの木製の小屋。
窓などはなく、木製の閂がかけられた扉と、その横に備え付けられた川の流れでゆっくりと力強く回転する巨大な水車。
足早に小屋に駆け寄るルドヴィカさんを慌てて追いかける。
閂が外され、飾り気のない戸が開けられる。
私達より早く小屋の中に入った光と、換気用に開けられているであろう小穴から差し込む光が小屋の内部を照らし出す。
そこには、甲高い音を立てて回転する幾つもの歯車と、それによって回転させられている発電機があった。
むき出しのままの、鉄心に導線が巻かれた電磁石と、真っ黒な見たことないほど大きな黒い・・おそらくこちらは永久磁石なのだろう。
外の水車のゆっくりとした回転を歯車で早い回転へと変えて発電機を回しているのだろう。
「どうだ、わかるか?」
ふと、戸の横にスイッチがあるのが目に入る。天井に目をやると、電球がぶら下げられているのが目に入った。
スイッチを逆側へと倒す。
「だめか」
ルドヴィカさんの落胆した声。
私達の期待と裏腹に、天井からぶら下げられた電球は暗いままだった。
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