27, Investigation

「ルドヴィカ姉さま、一体何が起こったのですか」

 1室から聞こえてくるマリーさんの取り乱した声。

「おちつきなさい。」

「おちつけ、マリー」

 ルドヴィカさんとローザさんのなだめる声。

「これもあいつのせいなんでしょうっ!」

 金切り声に、その部屋へ向かいかけていた足がピタリと止まる。

「いい加減にしろっ!なんでも他人のせいにするんじゃない」

 そしてルドヴィカさんの怒鳴り声の、あまりの激しさに辺り一帯の空気が震える。

「ね、姉さま・・」

「少しは反省しろ」

 マリーさんの沈んだ声色とイファさんの怒りの滲んだ声。

 荒々しくドアが閉まるとイファさんとローザさんがでてきた。

「どうしてあいつは・・・」

「そう・・ですね・・・」

 渋い顔をしたルドヴィカさんと、なんとも言えない微妙な表情を浮かべたローザさん。

 ローザさん目が合う。

「私はマリーについてます。心配なので。」

「そうか、わかった。」

 目をそらすようにルドヴィカさんに向き直ってそう言うともと来た道を戻っていった。

「どうでしたか?」

 なにも聞いていない風を装い、ルドヴィカにそうきく。

 一瞬バツの悪そうな顔を浮かべる。

「・・ああ、どの部屋も電気はつかないみたいだ。」

「それだと・・」

「発電機が壊れてるってことになるのか?」

「その可能性は高いと思います。」

 気まずい沈黙が立ち込める。

「そうだな。コルデリア、一応ロウソクの用意をしといてもらえるか?」

「かしこまりました。また、お昼の支度の方いかが致しましょう?」

「電気がないとできないか?」

「いえ、問題ありません。料理そのものに電気を使うものはありませんので。」

 淡々と答えるコルデリアちゃん。

「夜までにはなんとかしないと行けないってことだな」

「いったん腹ごしらえをしよう。そしたら何かいいアイデアでも浮かぶだろう。」

「そうですね。」

「かしこまりました。」

 一礼をしてコルデリアちゃんは一足先に食堂へ戻っていく。

「一旦図書室に行きませんか?」

「何故だ?」

「エミリアさんが」

「もしかしたらエミリアさんが直し方を見つけてくれるかもしれませんし。」

 窓から入ってくる光が、真っ赤な絨毯と金の飾りの入った白い外壁に柔らかく拡散され、廊下を明るく照らし出している。

 壁面に等間隔で取り付けられている照明。

 今は明かりが灯されていなくても問題ないが、夜になればどうなるか。

 図書室の巨大な扉を開けて中へ入る。

 扉がやけに軽いと感じた瞬間。

「きゃっ」

「うわっ」

 内側から扉を押し開けたエミリアさんとぶつかりそうになり、軽い悲鳴を上げる。

「ちょうどよかったですわ。発電機についてわかった事があったので、知らせに行こうと思っていましたの。」

 胸元に大事そうに抱えられた1冊の本。

 照明が消えた、窓の殆ど無い薄暗い図書室が目に入る。

 この中で必死に資料を探してくれたのだろう。

「ありがとうございます。」

「本当にそうだ。ありがとう、エミリア。」

「そんな、私に出来るだけのことを下までですので。」

 恥ずかしそうにうつむくエミリアさん。

「昼食を食べながら、エミリアの調べた内容をもとに作戦会議と行こう。」

 食堂に移動する。

 テーブルにすでに並べ終えられた料理とともにコルデリアちゃんが一礼で迎えてくれた。

 食事もそこそこに作戦会議を始める。

「私達が使っている電灯は、やはり女王の試練によってやってきた王が作らせたものだそうです。」

「そうだったんですね。」

「そうだったのか。」

 私としてはやはりそうだったのかという感想をいだいたのだけれど、ルドヴィカさんは少なからず衝撃を覚えたみたいだ。

「この城はこの世界に移ってから、多くの王たちに寄って新たな設備が導入されているようです。・・イファが亡くなったトロッコも、海辺から魚を効率よく運ぼうと作られたものだそうです。その他にコルデリアさんの厨房に、数多く王たちが作った道具があると図書館の資料にかかれています。」

 エミリアさんはそこで一旦言葉を区切る。

 自分が生まれたときにすでに存在したものは、昔からずっとそこに存在すると思ってしまうものだと誰かが言っていた。

 現代日本のインターネットやスマートホン然り。それがなかった時代があったということは、私には想像もつかない。

 待ち合わせとかどうしていたんだろう。

 酔っ払った親の昔話として散々聞かされたり、古い映画やドキュメンタリー番組で見ることがなかったら想像すらつかなかっただろうし、ましてそんな話を聞いても信じることはできなかっただろう。

 中世に電気がなかったことを私は知っている。そして電気が発明されたのは近代だというのも。

 かつて城を訪れた王に人によって差があるとは言え嫌悪感を抱いている城の人達にとっては自分が便利に使っていたものがその王に寄ってもたらされたと言うのは、複雑な心境だろうなと思う。

「・・それで、直し方はわかったのか?」

「電灯についてここに詳しく記載されています。あかりさんなら直し方がわかるのではないかと思ったのですが。」

 資料に目を落とす。

 パラパラとめくっていくと、システム概要と書かれた、地図のような物が書かれたページが目に留まる。

 城と少し離れたところにある河川。その間横たわる森に線が引かれている。

 線がつながる先は城の一角と河川のそばに建てられた小屋。

「どうだ?」

「おそらくこの線が送電線で、この河川沿いに建てられた小屋に発電機なんだと思います。このどちらかが壊れてしまっているのだと思います。」

 ルドヴィカさんは私の話をきちんと理解してくれたのかどうかは分からないが、深く頷く。

「私とあかりで、小屋の方から確認してみよう。ただ川まで少し距離がある。用意をしてからまたここに集まろう。」

「わかりました。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る