Day 4

21, The Girls

 謎の多幸感を感じつつ目を覚ます。

 目の前に幸せそうに眠るコルデリアちゃんの顔。

 そして、自分とコルデリアちゃんの乱れた衣服。そして、コルデリアちゃんの手が私、私の手がコルデリアちゃんの後ろにまわされているのが目に入った。

全身から感じられるコルデリアちゃんの温もり。

 ドキッと肩が跳ねる。

「あかり・・様・・」

 それがコルデリアちゃんに伝わってしまったのか、目の前の目がパチリと開く。

 それと同時に昨日の出来事がフラッシュバックする。

「あっ・・あぁ・・・」

 激しい雨、疾走するトロッコ、そして跳ね上がるイファちゃん

 体が小刻みに震えだす。

「あかり様・・」

「っ・・・」

 唐突にコルデリアちゃんに唇を奪われる。

 先程までと同じような多幸感が脳の奥から湧き出てくる。

「あかり様は私の命を救ってくださったのです。ほかにも多くの姫様の命を」

「私・・・」

「私の身体も心もすべてあかり様のもの・・・どうかこの身が果てるまで、お傍でお使えさせていただくことをお許し下さい・・」

 そして、コルデリアちゃんの小さな体に力強く包容された。

「うん・・・」

 私は罪悪感と多幸感と、色々なものがごちゃまぜになった、ぼんやりとした頭でそう答えた。

「あかり様。申し訳ありませんが、私はこれから食事の支度をしてまいります。もうしばらくお部屋でおくつろぎいただけますか?」

「わかった・・・」

 コルデリアちゃんはそう言うとするりとベッドから抜け出し、衣服の乱れを強引に直すと一礼して部屋から出ていく。

「コルデリアちゃん」

 すでにコルデリアちゃんのぬくもりが恋しい。

 そして・・・

 やっぱりもう一眠りしよう。

 気持ちの整理ができない。

 頭から掛け布団をかぶると目を閉じる。

 どうして・・・どうして・・・

 あの場であれ以外の行動を取ることは本当にできなかったのか。

 他の皆が入ったトンネルに向かって驀進するトロッコ、それに乗ったイファちゃん、何も知らない皆、そして真っ暗で逃げ場のないトンネル。

 私がトロッコを脱線させ、イファちゃん・・・をころ・・・殺した。

 絶望の表情で泣き叫んでいたイファちゃんは、私のとった行動をどう思っただろうか。

 トロッコを、ただ止めようとしているだけに思えただろうか、それとも・・・

 あの時の私が何を思って行動したのかは、今となっては全く思い出せない。

 私がレールの上にくべた瓦礫に当ったあと。トロッコから投げ出され、地面に叩きつけられ、そして脱線したトロッコの下地きになったイファちゃんは何を思っただろうか。

 わからない。

 やっぱり痛かったよね、怖かったよね。

 コルデリアちゃんは、どこまで見ていたのだろう。やっぱり、私がやったことをすべて見ていたのだろうか。

 それなのに、どうしてこんな私のことを励ましてくれるのだろう。

 ルドヴィカさんは私がやったことを何も知らないだろう。コルデリアちゃんはどうしてかばってくれたのだろうか。

 他の皆はどう思っているのだろうか。

「コルデリアちゃん・・・私、どうしたらいいの・・?」

「あかり様?どうかいたしましたか?」

 思わずそうつぶやいてしまったあと、本人に聞かれてしまったことがわかり慌てて飛び起きる。

「ごめん、なんでもない」

「それなら良いのですが・・・」

 訝しげなコルデリアちゃんの声。

 着替えたのか、シワひとつない完璧なメイド服姿のコルデリアちゃんがそこにいた。

「お召し替えいたしましょう」

「うん」

 差し出されたコルデリアちゃんの手をとって、ベッドから抜け出す。

手際よくコルデリアちゃんにネグリジェを脱がされる。

そして突然、背中に冷たいものを押し当てられて、小さな悲鳴が漏れた。

「きゃっ」

「汗ばんでおられるようなので、失礼致します。」

 くまなくコルデリアちゃんは濡れたタオルで体中を拭いてくれた。

 そして、王子服を着せてくれる。

「顔色もあまり優れません。どんな些細な事でも私にお申し付け、あかり様はゆっくりなされてください。」

 心配そうなコルデリアちゃんのこえ。

「わかった。ありがとう、コルデリアちゃん」

 素直に感謝の念を込めてそう返す。

「こんな私にそんなもったいないお言葉、ありがとうございます。」

 すると、コルデリアちゃんの本当に嬉しそうな声が帰ってきた。

「食事の用意ができております。食堂の方へご案内いたします」

 コルデリアちゃんに案内され、食堂へ向かう。

 食堂の大きな扉の前までたどり着き、コルデリアちゃんが扉を開けてくれたちょうどその時だった。

「あいつと一緒に食事なんかできないわ」

 マリーさんの怒鳴り声と木製の重厚なテーブルを叩きつける鈍い音が広い食堂に響いた。

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