20, Cordelia

 昨日、私は地球が丸いということを知りました。最初、あかり様がそうおっしゃられたときは、信じることができませんでした。

 昨日満月の月が突然欠けだしたとき。そして今日、あかり様は海とおっしゃっていたと思いますが、大きな、そしてしょっぱい巨大な池を見たときにそれを理解しました。

 どうかあかり様、あかり様のおっしゃられたことを疑うという、神をも恐れぬような行いをした私をお許し下さい。

 無限に続く「海」。その切れ目が丸みを帯びていることを見て、私の愚かさを痛切いたしました。

 あかり様。

 どうか愚かな私の罪をお許し下さいとはとてもではありませんが、申せません。

 どうか愚かな私の罪の償いをさせて頂くことをどうかお許し下さい。

 あかり様に支えていただけなければ、平らな地面にしか立てない私は丸い地面を転がる以外、何もすることができません。

 どうか私に、愚かな私に、これからも高貴なあかり様にお使えさせていただくことをどうかお許し下さい。

やはり、あかり様は大変強くそして大変優しくお方なのです。

 あかり様がいなければ、私とあの場にいた姫様たちは何もわからないまま命を落としていたでしょう。

 もしも私があの時のあかり様と同じ立場に置かれたなら。

 私はあかり様と、そして多くの姫様たちを見殺しにするしかできなかったでしょう。

 どうかあかり様、こんな愚かであった私をお許し下さい。

「コルデリア、王子をよろしく頼む。私は他の皆をなだめてくる。」

「かしこまりました。」

 ルドヴィカ様は、私とあかり様を王子の部屋の前まで見送ると、そうおっしゃられました。

 ルドヴィカ様もあかり様ほどではありませんが、立派な方だと思います。

「あかり様、失礼致します。」

 いったんあかり様に部屋のソファにお座り頂き、風呂の用意をはじめる。

 暖炉に薪をくべ、火をつける。

 そして、収納具のなかから真っ白いバスタブを取り出し暖炉の前に設置し、薪に火が回り始めているのを確認する。

「あかり様、お湯をとって参ります。」

 一礼をして部屋を出て、土間のずっと火を絶やすことのない釜からお湯をすくい、急いであかり様のもとへ戻る。

 それを何度か繰り返し、バスタブにお湯をためる。

 湯の中に手を入れ、温度を確認する。

「あかり様、風呂の用意が整いました。失礼致します。」

 泥汚れが目立つ王子服とを脱がす。

 あかり様の神聖な肌があらわになり、ドキリと心臓が跳ねる。

「し、失礼致します。私がお手を触れることをどうかお許し下さい。」

 覚悟を決めてあかり様の下着を外し、頭と膝の下に手を通してバスタブへとお運びする。

 あかり様の体を汚すものをのを洗い流していく。

「コル・・デリアちゃん・・」

 薄っすらと瞳を開けたあかり様。

「あかり様っ?」

 突然のあかり様の声に心臓が一瞬とまる。

「今夜は・・ずっと一緒にいたい・・な・・・」

 それだけ仰られると、再びあかり様は目を閉じてしまわれました。

「かしこまり・・ました」

 ゴクリと生唾を飲み込む。

 あかり様のお体をお拭きし、ネグリジェへお着替えさせて頂く。

「失礼致します。」

 頭と膝の下に手を通し、ベットへとあかり様をお運びする。

「コルデリアちゃん・・・」

「は、はいっ」

 突然名前を呼ばれて驚くいたものの、王子様は安らかな顔で眠っているようだった。

 手早くバスタブを片付け、暖炉の火を小さくする。

「それでは王子様、私、体を清めてまいります。」

 スカートの裾をつかむ手の力が無意識のうちに強くなる。

 一礼をすると部屋を出て、再び土間に寄って水を汲むと自分の部屋へ戻る。

 手早く服を脱ぎ、丁寧に体を拭いてゆく。

 そして、おろしたての下着とメイド服に身を包む。

 小さな手鏡を覗き込み、髪を整え、身だしなみを確認する。

「大丈夫」

 足早にあかり様の部屋戻る。

「失礼致します。」

 いつも以上に足音を立てないようにしてあかり様のいるベッドへ近づく。

「・・・」

 安らかな、あかり様の寝顔が目に入る。

 やっぱり疲れていらっしゃいますよね・・・

 踵を返そうとした時、ベッドから伸びてきた手が私の手首を掴んだ。

 そしてベッドの中へ引き込まれる。

「コルデリアちゃん・・・」

「あ、あかり様っ?」

「大好き」

 あかり様のふくよかな体であつく包容される。

 恥ずかしさと、そして嬉しさに顔がかっと赤くなるのを感じた。

「わたくしもで・・」

 唇を奪われる。

 これまで感じたことの無いような、幸せな気持ちに包まれた。

 まだまだ愚かな私ですが、あかり様、貴方のお陰で私はこれまでの救いようのないほど愚かな私と決別することができました。

 この身が果てるまで、どうか貴方に私のすべてをかけて仕えさせていただくことをどうかお許しください。

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