17, Have You Ever Seen The Sea?

「なにこれっ、すっごーい」

 そろそろ真上に到達しようとする太陽の光をキラキラと反射する青く透き通った水面。

 その隣の白い砂浜に、コルデリアちゃんが敷物を敷いていく。

 中世を舞台にした映像作品でみたことあるように、表面を包んでいた赤と白のストライプ地それが取り除かれた大きなバスケットの中からは、飲み物の入ったビンと、幾つかの食器類、そして美味しそうな軽食類があらわになる。

「どうだ、皆こんなものがあるとは知らなかっただろう」

「さすがルドヴィカお姉さまです。」

 相変わらずのマリーさん、そしてローザさん。

 そして、靴と靴下を脱いで海辺へ駆け出していくイファちゃん。

 それを敷物に腰掛けながら、おしゃべりを始める他の姫たち。

 唯一エミリアさんだけが、気がかりそうな顔をしてイファちゃんのあとを追いかける。

「コルデリアちゃんも、ここ来るの初めて?」

 脇に直立不動で控えるコルデリアちゃんに聞いてみる。

「はい。この場所どころか、城を囲う山々の外にでることなど、考えたことすらありませんでした。」

 そして、せわしなく姫たちの世話をしてまわる。

 ぱしゃりと水しぶきが上がる音。

 スカートの裾を濡らしながら、波打ち際ではしゃぐイファちゃん。

「イファ、あまりはしゃぐと・・・」

「わっ」

 ひときわ大きな波がきて、慌てたイファちゃんがその中へ倒れる。

「たすけ・・うわっ・・」

 慌てて立ち上がろうとするも、ひき波がそれを邪魔をする。

 私とエミリアさん、そして少し遅れてコルデリアちゃんが助けに向かう。

「大丈夫ですか、イファ?」

「大丈夫、イファちゃん?」

 2人でずぶ濡れになったイファちゃんを助け起こす。

「ぐすん・・」

 幸いにして天気はいいし、風もあまりない。風邪の心配はないだろう。

「こちらへ」

 コルデリアちゃんが皆のいる方へイファちゃんを誘導する。

「ちょっとあんた何やってんのよ」

 ずぶ濡れのイファちゃんを見て、不快そうな声を上げるマリーさん。

 ローザさんも呆れたように首を振る。

「濡れて気持ち悪いよ・・・」

「新しいお召し物を城から取ってまいりましょうか?」

「いや、いい。この天気ならすぐ乾くだろう。それに、少しはイファも落ち着いて行動することを覚えるべきだ。反省の意味も込めてしばらくそのままでいること」

「はい・・・」

 大きなため息をつくルドヴィカさんと、怒られてしょんぼりとしたイファちゃん。

「それにコルデリアもたまには息抜きをしたらどうだ?欲しいものぐらい自分で取れる。」

 そして気遣うようにそう言った。

「・・かしこまり・・ました・・・」

「なら一緒に行こうよ」

「いってこい」

 ルドヴィカさんの力強い声に背中をおされ、困った顔をしたコルデリアちゃんの手を引いて海の方へ向かう。

 靴を脱ぎ、ズボンの裾をめくって、波打ち際に立つ。

 程よい冷たさの透き通った海水が足をあらう。

 青みがかった透明な海水の下、真っ白い砂の感触が心地よい。

「コルデリアちゃんもおいでよ」

「はい・・・」

 戸惑いつつも、屈んで靴をぬぐ。                                                                   

 片足立ちになって靴下を脱ぐ際に、ロングスカートがめくれて真っ白なふくらはぎが目に入った。

 そして恐る恐るといった様子で、足元を見ながら一歩づつ私の方へ近づいてくる。

「ひっ」

 波が素足をあらう感触に驚いた様子のコルデリアちゃん。

「えい」

 水しぶきをそんなコルデリアちゃんに向かって飛ばす。

「きゃっ」

 悲鳴を上げると、驚いた様子で顔を上げ、私の方を向いた。

「お、王子様・・・」

「怖くないよ、ほら」

 水しぶきを再び。

 怖がるコルデリアちゃんもかわいい。

「や、やめてください・・」

「ごめん」

 やりすぎてしまったかな。

 そう不安になりながらコルデリアちゃんのそばへかけよる。

「えいっ」

 すると前から水しぶきが飛んできた。

「うわっ」

 コルデリアちゃん少し意地悪な顔。そして、だんだん不安そうな顔に戻ってくる。

「大変申し訳・・」

「やったなっ」

 そんなコルデリアちゃんに仕返しをする。

 久しぶりに童心に帰り、まるで子供みたいにはしゃいだ。

 

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