16, The Very Long Old Tunnel
レンガが積み上げてつくられた壁面を、コルデリアちゃんが手に持つ松明がぼんやりと照らしている。
思いの外トンネルは長い。もう入り口は見えなくなり、出口はまだ見えないどころか、その気配すらない。
「コルデリアちゃん、どっちか持とうか?」
右手に松明、左手にバスケット。
流石に荷物が多い。
「いえ、これが私の役割ですから、大丈夫です。」
「いいから」
やや強引に松明を奪い取る。
「あっ、ありがとう・・ございます」
そして、右手をつかむ。
「一緒にいこうっ」
「はいっ」
土の地面の上に直接敷設されていること、木製の枕木が腐ってなくなってしまっていることもあり、線路の上は歩き辛いと聞いたことがあったけれど、そんなことはなかった。
そして線路には微妙に傾斜がつけられているようで、出口へ向かって微妙な上り坂になっている。
過去には城へ外から何らかの荷物を搬入するために利用していたのかな、と邪推する。
午前中にからの空のトロッコを人力で外に押し出し、午後に荷物を詰めて自重で坂を下らせる。
良く出来てるな、と思うと同時に錆と歪みが目立ち始めてきたレールを見て、もうそれと同じことは出来ないと感じた。
「ルドヴィカ姉さま、本当に大丈夫なのですか?天井が崩れ落ちてきたりしないかわたくしとても不安で・・・」
そう言ってルドヴィカさんの腕に抱きつくマリーさんと、その言葉に同意するように相変わらず無表情で頷き、そしてルドヴィカさんのそばから離れないローザさん。
「城の壁と同じような作りだ。そんなにこれはやわじゃないだろう。」
2人の顔色はどことなく暗く感じた。もっともこのトンネルの中がくらいだけかもしれないが。
「楽しいねっ」
「イファ、あまりはしゃいでいると・・・ほら・・」
枕木に足を取られたイファちゃんを、地面に頭から突っ込むまえにエミリアさんが腕で受け止める。
「気をつけてくださいね。」
「わかったっ」
城を出る時と比べて、イファちゃんの声ははずんでいるように聞こえた。
そんなイファちゃんに当てられてか、エミリアさんもどことなく楽しそうに見える。
「私の記憶が確かならそろそろ出口が見えてくるはずなんだが」
「ほんとっ?」
「ああ」
右腕をつつかれる。
そちらに向き直ると、バスケットを持った左手を下ろしながら、コルデリアちゃんにこっそりとそう告げられた。
「王子様、仄かですが出口のあかりが見えます。」
奥の方を目を凝らしてみる。
「本当だ」
そのまま進んでいくと、はっきりと出口のあかりが見えるようになってきた。
「出口だっ」
そう言うが早いか、イファちゃんが走り出す。
それをハラハラしながら見守りつつ、こちらはこれまでと同じように歩いてそこへ向かう。
「あっ」
一度体勢を崩しかけるも、なんとか立て直し、陽の光の下まで駆けでる。
「みんな、早く早くっ」
くるりとこちらへ向き直り、大きく手を振る。
「少し急ぐか?」
「そうですね。」
私達も歩みをはやめる。
「あいつ、相変わらずわがままなのよ・・・」
「まったくだ」
異論を唱えることはなかったが、その代わりなのか2人が吐いた毒が耳に入る。
ちらりとルドヴィカさんの顔を伺うと、何故か少し嬉しそうな顔をしていた。
出口の光がみるみるうちに大きくなり、私達もトンネルの外へ出た。
「遅いよっ」
「お待たせ、イファちゃん」
そこでは生い茂った木々が森を構成していた。
線路のまわりだけ木々は伐採されているが、使われなくなって日が長いのだろう、雑草が陽の光を浴びて大きく成長し、線路を覆い隠そうと頑張っている。
「あれって何かわかるっ?」
イファちゃん指した方向、そこでは朽ち果てた何枚もの木製の板と金属のフレーム、そして幾つもの金属の車輪が自然に帰ろうとしていた。
「トロッコ、正確にはトロッコだったもの、かな。」
イファちゃんが再び口を開こうとするのを見て、このままではなんの説明にもなっていないことに気づき、慌てて言葉を続ける。
「この2つ並んだ鉄の棒の上を走る乗り物なんだ。たくさんのものを楽に運べるから、何か沢山の荷物を城の地下へ運ぶのに使ってたんじゃないかな。」
「へーっ」
「王子は本当に物知りだな。素直に感心する。そんなこと私も知らなかった。」
「ありがとうございます。」
ルドヴィカさんのような、年上の人に褒められるのは素直に嬉しい。
「そんなことを・・」
「それでも、この森を抜けた先に何があるかは知らないだろう。きっと驚くぞ。」
マリーさんの声を遮るようにルドヴィカさんが続ける。
そこがこの探検の目的地となるのだろうか。
「本当っ?」
「もちろん」
空高く澄み渡る青空の中、青々と生い茂る木々のなかを再び進み始める私達。
相変わらず、緩やかな上り坂となっているレールの上を進んでいくと、ものの15分ほどで森を抜けた。
「すごいっ」
すると、皆が思い思いの感嘆符を上げる。
そこには、無限に続いているような大海原が広がっていた
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