13, The Girl Sleeping Next to Her

「コルデリアちゃん」

 背中からおろし、ベッドに座らせる。

「っ・・・」

 立ち上がろうとすると、唐突に腕を掴まれた

「怖い、怖いです」

 震えが腕を通して伝わってくる。

「地球が丸いならば今にも私は滑り落ちてしまうのですか?」

「大丈夫」

 膝をかがめ、コルデリアちゃんを抱きしめる。

「私がついてるよ」

 そして優しく背中をさする。

「こうやって私が支えてるから、大丈夫、大丈夫だよ」

「王子様・・・」

 コルデリアちゃんが背中に腕を回し、抱きしめ返してくるのを感じる。

「大丈夫、だいじょうぶだから」

 頭を撫でる。

 震えが引いていくのを感じる。

「ちょっとまってね」

 今度は腕を捕まれなかった。

 クローゼットからネグリジェを取り出し、手早く着替える。そして予備として保管されていたもののうちの一つを手に取る。

「着替えよっか」

「はい・・・」

 リボンを解き、エプロンを外す。

 ボタンを外して黒のワンピース部分を脱がすと、絹のようにきめ細かくなめらかな、コルデリアちゃんの肌が露わになる。

 いつも通りのコルデリアちゃんならこんなこと絶対にしない、そして嫌がるに違いない。

 チクリと罪悪感を覚える。

 神聖なソレに、できるだけ触れないようにしてネグリジェを着せた。

「ありがと・う・・・ございます」

「・・・どうしたしまして」

 朝食の最中にでもコルデリアちゃんがやってくれたのだろうか、いつの間にか完璧にベッドメイクされているベッドの掛け布団を大きくめくる。

 動こうとしないコルデリアちゃんを、お姫様抱っこの要領で抱える。

ピクリと一瞬体が震えたものの、またもとの落ち着いた状態へ戻った。

コルデリアちゃんの体は、まるで羽のように軽かった。

 ベッドに寝かせ、私もその隣に横になる。

 コルデリアちゃんの頭から、女の子の甘い匂いがした。

「今夜は一緒に寝よう?」

「はい・・・」

 王子の部屋の、キングサイズというのかはわからないけど、4人で寝ても十分な広さがありそうなほど大きな天蓋付きのベッド。

 その真中で2人肩を寄せ合う。

 疲れていたのか、それとももとから寝付きがいいのか横から安らかな寝息が聞こえてくる。

 安心しきったコルデリアちゃんの寝顔。

 かわいい

 思わずほっぺたを人差し指で突くと、絹のような肌触りとマシュマロのような弾力が返ってくるとともに、罪悪感がこみ上げてくる。

 なぜ私はあんなことを言ってしまったんだろうか。

 コルデリアちゃんと仲良くする上で、あんなことはどうでも良かったはずなのに。

 地球は丸い。私が物心ついたことから当たり前のように思っていたこと。

 そして、現代の日本では誰もが当たり前のように思っていること。

 ただここは日本ではなければ、現代でもない。全く異なる価値観が共有されている世界。

「ごめんなさい」

 もちろん、隣からは可愛らしい寝息が返ってくるだけだ。

 天地がひっくり返されるような事をあんな軽はずみに言うべきではなかった。

 なんで私はあそこで変な意地を張ってしまったのか。

 思わず歯を食いしばり、手を握りしめる。

「っ」

 コルデリアちゃんが寝返りを打ち、私に半分覆いかぶさるような形になる。

 薄い胸や体が腕に当たる、人肌の温かい感触。

 そして手がまわされ、私はまるで抱きまくらのように抱きしめられた。

 甘い匂いと可愛らしい吐息。

 体が締め付けられるのと反比例するように心を縛る鎖はゆるくなっていった。

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