Day 3
14, New things
上方を覆う、高価そうな装飾が施された天蓋が目に入る。
全身を包み込む暖かく、柔らかい感触。
「おはよう、コルデリアちゃん」
コルデリアちゃんの方に微笑みかけながら言う。
「っ・・・」
すると慌てたように、何故か顔を赤らめながら目を逸らされた。
横から聞こえてくる、まだ幼さを感じるようなソプラノの女の子の声。
「おはよう・・ございます・王子様・・・」
いつの間にか、一分の好きもないメイド服に着替えていたコルデリアちゃん。
体を起こしベッドから降りる。
「失礼致します、お召し替えさせて頂きます。」
コルデリアちゃんの手がネグリジェに伸びてくる。
スルリと背中と脇の下の結び目をほどき、ネグリジェから腕を抜き取りゆっくりと下へ降ろす。
そして真っ白いシャツ、真っ白なズボン、それに加えて諸々の装飾品。ファスナーがないのに加えて、ゴムがないのか貴重ゆえなのか、留め具がいちいちめんどくさい上に結構な数がある。
それでもコルデリアちゃんは淀むことなくそれを私に着付けていく。
最後に濃紺のジャケットを羽織り、完璧な王子の装いが完成する。
「ありがとう」
「とんでもございません。」
少し上ずった声。どことなく恥ずかしさと嬉しさの混ざったような表情。
「食事の用意ができております。食堂の方に移動されますか?」
「そうする。」
「ご案内させて頂きます。」
「ありがとう。」
一昨日と、昨日と同じようにコルデリアちゃんに連れられて食堂へ移動する。
一昨日よりも、昨日よりも、その距離は短くなっていたように感じた。
ただ、廊下と食堂を遮る扉が空いたとき・・・
入り口からみんなが座るテーブルがものすごく遠く感じた。
席に着くと同時に食事が配膳されて朝食が始まる。
「あいつがきたから・・・・あんなことに」
「・・・」
嫌な沈黙が包む食堂の中、マリーさんとローザさんの潜めきれなかったその声が耳に入り、思わずピクリと体が震えた。
「コホン」
続いて聞こえるルドヴィカさんの咳払い。
「昨夜起こったあれが何なのかはわからないが・・・祟りということはないだろう。なんせ我々はたたられるようなことなどしていないからな」
ルドヴィカさんの気張ったような声に、何か言いたいことがありそうな目をマリーさんと、そしてローザさんがむけるのが目に入った。
「月が一瞬見えなくなっただけで、それ以外のことが起こったわけでもあるまい」
無言の対立を感じる不穏な沈黙へと場が切り替わる。
両手に握る、ナイフとフォークの先に意識を集中させる。
もしルドヴィカさんがいなかったら・・・
そう思うと身がすくんだ。
そして皆がそろそろ食べ終わるというころ、それは起こった。
「ところであかりってさっ、機械?っていうのに詳しいのっ?」
「ど、どうして?」
「昨日の夜、メイドと一緒に変な道具で空を見てたから詳しいのかなって」
そして、相変わらず空気を読まないイファちゃんの発言に、思わず心臓が凍りつく。
今その話題を、出されるのは不味い・・・ただでさえ気が立っている、特にマリーさんの前で。
「このお城の地下にねっ、鉄の棒が2本並べて引いてあるのっ。それがすっごく遠くまで、続いてるみたいなんだけど、どこまで続いているのか知りたいなって」
今にも私に向かって爆発しそうなマリーさん。
そこに助け舟を出してくれたのはやはりルドヴィカさんだったのだけど、
「せっかくなら皆で、コルデリアも連れてその鉄の棒がどこへ向かって続いているか確かめに行ってみないか?」
その内容はかなり意外なものだった。
「えっ」
「いいのっ?」
「ああ。気分転換にマリーとローザもどうだ?私も連れのものと小さい時行ったことがある。普段と起きないようなことが起こったのは、案外いつも同じことの繰り返ししかしない私達への天からの警告だったりするかもしれないぞ?」
そういってローザさんに、マリーさんに答えをきくような視線を向けた。
「わかりました。」
相変わらず内面が読み取りづらいローザさん。
「うぅ・・・ルドヴィカ姉さんがそこまで言うなら・・・」
目が潤んでいるようにも感じられる、どことなく悔しさを感じさせるマリーさん。
これが姉と言うものなのか。
姉妹を1つにまとめる力、そして時折見せる私への心遣い。
私ももう少し経験を積めばルドヴィカさんのようになれるのだろうか。
「というわけでコルデリア、そうだな、外で手軽につまめるようなものを用意してくれないか?昼は鉄の棒の先で食べよう。」
「かしこまりました。ルドヴィカ様」
食器を片付けるのを一旦やめ、そう言いながらロングスカートの丈をつまみながらルドヴィカさんへ向かってお辞儀をするコルデリアちゃん。
「ではしばらくあとに、皆また食堂に集合して出かけよう。」
そう言い残すと少し軽くなった空気を残して、ルドヴィカは食堂を出ていった。
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