08 Dark, Narrow and Steep Stairs
食べ終わった食器を満載にしたカートを押して厨房に戻っていく、コルデリアちゃんの後ろ姿を見送る。
これからあの食器すべて洗って、おそらくテーブルクロスを掛け替えて、昼の支度や洗濯なんかもするんだろうか。
煌々と輝くシャンデリアに、シミひとつないテーブルクロス。そしてホコリ一つ落ちていない絨毯。
これらもコルデリアちゃんが手入れしているのだろうか。そうすると、午前中の仕事が片付くのはいつになるのだろう。
カップに残っていたお茶を一気に飲み干すと、コルデリアちゃんが先程入っていった扉を開けた。
「王子様っ?」
メイド服の袖をまくり、食器を洗っていたコルデリアちゃんが驚いた顔で私を迎えてくれた。
「やっぱり手伝うよ。」
「でも・・・」
「そのほうが、一緒に望遠鏡作る時間を長く取れるし」
コルデリアちゃんはまだ目を白黒させている。
「洗い物は私が変わるね。コルデリアちゃんは他のことをお願い。」
袖をまくり、コルデリアちゃんの手から食器とスポンジを奪い取る。
「あ・・はい・・・・」
これまでに洗ってあった食器と同様に、洗剤を洗い落として流しの横に並べる。
食堂と対称的に飾り気のない厨房。むき出しの石造りの床の中央に置かれた簡素な机と、壁面には今は火が落とされた巨大な暖炉というのか、かまど言うのかわからないちょっとよくわからないけれど・・・レンガ造りのそれが設置されている。
その他には今私が洗い物をしている金属製のシンクや、いまコルデリアちゃんがマッチのようなものを使って点火した、私の基準からすると古いコンロがある。
最初まるで中世のヨーロッパみたいだと思っていたけれど、技術水準はそれよりだいぶ進んでいるらしい。
ただ洗剤の質はあまり良くないらしく、油汚れがなかなか落ちない。こんなところで現代の洗剤メーカーに感謝することになるとは思わなかった。
「コルデリアちゃんは毎日1人ですべての仕事をしているの?」
「掃除や洗濯、食事の用意などはすべて私が行っています。」
「大変じゃない?」
「いえ、これが私の役割ですから。」
「そう・・・」
みんなで役割分担したりしない・・・んだろうな・・・
そんなこんなでコルデリアちゃんがテキパキと仕事を片付け終え、私も洗い物を終えた。
「手伝っていただき、本当に有難うございます。」
「いいって。気にしないで」
コルデリアちゃんに深々と頭を下げられる。
家の手伝いでここまで感謝されることはないし、なんだか背中がむずかゆくなる。
「それで、望遠鏡どこで作ろうか?」
「僭越ながら、私の部屋でよろしいでしょうか?道具も揃っておりますので。」
「そうしよう」
コルデリアちゃんが木を編んで作られたバスケットにお菓子とティーポットをつめる。
そして、食堂へ続くドアへ向かいかけていた私に声をかけた。
「こちらになります」
「えっ?」
思わず私はそう声を上げる。
壁面に設置された巨大な暖炉の中へ入っていく。
「足元にお気をつけください。手入れは行っておりますが滑りやすいので。」
暖炉の中からコルデリアちゃんの姿が消える。
私も恐る恐るその中へ入る。煙突のなかにカンカンと響く何かが金属を叩くような音。
煙突上部から陽の光が入ってきているようで、内部は薄暗いものの全く中の様子がわからないというほどでもなかった。
レンガでできた壁面に、巨大なホッチキスの針を等間隔で打ち込んだように作ってあるハシゴが設置されているのを見つけた。
これをどのくらい登ればいいのだろう?そう思って上を見上げると、すいすいとはしごを登っていく何かが・・・
慌てて目をそらす。
見えてない。黒いローファーのような靴と真っ白なソックス、その先の肌色のふくらはぎと太もも。そのさらに先のロングスカートの中なんて、黒くなっててよく見えなかった。
見えてない。見えてないよ。ほら、薄暗かったしね。
「王子様?」
「ごめん、なんでもない、なんでもないから」
慌ててハシゴに足をかける。
すすで汚れているといったこともなく、というよりは長い間ここで何かが燃やされたことはないんだろうなと思った。
どこまで登ればいいのだろう。そしてどれくらい登ったのだろうか。下を見るのも怖いし、かといって上を見上げるのにも抵抗を感じる。
ふとコルデリアちゃんのハシゴを登る音が途切れ、それとは違った金属音聞こえ他かと思うとすぐ止まる。
「王子様、こちらです。」
上を見上げる。どうやら煙突の途中に、メンテナンスか何かのために城の上層階に出られる扉があるらしい。
そこからコルデリアちゃんが身を乗り出し、私に手を差し伸べてくれていた。
登るペースを上げ、その手をつかむ。
「ありがとう」
思いのほか強い力で外へ引っ張りだされる。
そこは見覚えのある、昨日の夜コルデリアちゃんを見つけた簡素な作りの廊下があった。
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