05 Misunderstanding

 広い豪奢な部屋のなかで1人。窓際に置かれたソファーに腰掛ける。胸まで体が埋まりそうなほどふかふかなクッションに、慌てて肘当てをつかみ体を支える。

 ふと窓の外を見る。

月明かりが照らす巨大な「城」の屋根。その上でなびく、ピンク色の髪が目に入った。

「メイドさんっ・・・」

 なんで屋根の上にっ

 慌てて部屋を飛び出し。靴が全部埋まりそうなほどふかふかなカーペットが引かれ、壁には豪華な装飾が、そして豪奢な作りのドアが並ぶ廊下を、窓から見えたおおよその方向へ向かって進んでいく。

 それにしてもこのお城、6人しか、私を入れたとしても7人しかいないのにものすごい広い。

「あれ?」

 廊下のつきあたりに到達する。部屋の窓から見た限りだと、もう1つ上の階があるはずだった。

 そして最上階の部屋、その窓の1つ開け放たれ、その近くにメイドさんがいた。

「もしかして」

 カーペットが途切れた先、豪奢な作りのほかの扉とは雰囲気の違う目の前の簡素な木の扉を開く。中には薄暗い階段室があった。

 体重をかけると木が歪んだような大きな音がなる。恐る恐る階段を登りきり、また簡素な木の扉をあける。

 屋根の形に沿っているのだろう、斜めになった天井と簡素な木の扉が並ぶ、先程の豪奢なフロアとは打って変わって簡易な作りの廊下へ出る。

 床板がミシリと嫌な音をたてた。

 窓からメイドさんが見えた場所はおそらくこのあたりだ。

「どこにいるの、メイドさんっ・・・・コルデリアちゃん!」

 ドアを片っ端から開けていこうと手前側のドアに手をかけた瞬間、ドアの1つが開いた。

「ど、どうされたのですか、王子様」

 あまり感情を感じさせないコルデリアちゃんの驚いた声と表情。

「どうしたって、コルデリアちゃんが屋根の上にいるのが見えたから・・・さっきあんなことがあったばかりだし、不安になって・・・」

「星を見ていたのです。」

「星?」

「城の屋根の上からが、星が一番良く見えるのです。その・・・粗相をしてしまった日などはよく当てもなく星を眺めています。気が・・・紛れるので・・・」

 コルデリアちゃんが驚いた顔からうつむきながらどことなく恥ずかしそうな表情に変化する。

 私はだんだん顔の体温が上がっていくのを感じた。

「ご、ごめん私何か勘違いしてた・・・」

「その、私こそ紛らわしい真似を・・・」

 廊下で立ち尽くす私とコルデリアちゃん。気まずい沈黙がこの場を支配した。

 私はそれ破るべく、言葉を探る。

「そうだ、星」

「えっ?」

 苦し紛れに出てきたその言葉。

「星、一緒に見てもいいかな?」

「もちろんですっ」

 そんな言葉に、コルデリアちゃんはパッと電球がついたみたいに弾けるような笑顔を浮かべた。

「城の屋根から見るのが一番綺麗に見えます。そちらへいきましょう。」

 そして、先ほど自分が出てきたドアを開ける。

 え・・・屋根の上?

「どうぞ、私の部屋の窓から行くのが一番早いです。」

「あ、ありがとう。」

 私から切り出してしまった手前断れない。そう促され、コルデリアちゃんの部屋に入る。

 屋根裏部屋というのだろうか?窓際に行くに連れて低くなっていく天井と、1つだけある腰の高さほどの位置に設けられた外開きの窓。

 元の世界の私の部屋を基準にしても小さい部屋の中には木製の簡素なベッドと机、クローゼットが置かれている。

 あまり他人の部屋をジロジロと観察するのは良くないと思いつつも、簡素な机の上に置かれた何冊もの分厚い本、そして積み重ねられた文字や図表で真っ黒になった用紙が目に入った。

「こちらです。」

「うん」

 コルデリアちゃんに続いて、窓から外へでる。

 思いの外強く吹き付ける風邪が冷や汗を乾かしていく。

斜めになった屋根の中ほどに窓が、せり出すような形で設けられているため、懸垂の要領で屋根へ出なければいけないといったことはなかったけれど、屋根の角度の傾斜はかなり大きい。

 それをコルデリアちゃんはメイド服のまますいすい登っていった。

 私も意を決してそれを追いかける。時折足を滑らせかけつつも、後ろは絶対に振り返らないようにしながら。

 落ち込んだ顔から、怪訝そうな顔、そして弾けるような笑顔。

 出会ったばかりのときとは別人なのかと思えるほど、今のコルデリアちゃんは表情豊かだ。

「ここからが、一番星空がきれいに見れます。」

 屋根の頂点。やっとの思いでコルデリアちゃんの横に腰掛けると、コルデリアちゃんは夜空を指差しながらそういった。

 私もその指を追うようにして夜空を見上げる。

 そこには満点の星空が広がっていた。

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