第5話 風の乙女

俺の名は、ロドルド。


冒険者をしている。みんなが呼ぶ時は『ロド』と呼ばれる。


仕方ないごく普通の冒険者だ。ギルドの酒場の端で、偶に酒を飲んでいるのが、趣味だ。

元、ある小国の王子だったけど、今は見ての通り、ごく一般の平民だ。


どうして?それはだな、隣のナリア聖王国に潰されたんだ。当時は神聖ガタァリオ王国だったのが、何とも聖女が現れたそうで、彼女の名前を国名に入れ、変えたそうだ。

ちょうどその時、俺は国境近くの町にいたから、この大国である風の国ハイラリアに亡命した。

まぁ、といっても俺は平民として生きていくと決めている。


国を取り戻さないのか?

そんなの無理だ。何故かは、神聖、いや、ナリア聖王国だからだ。あそこは段違いに、イカれている。今では、巷で別名、ナリア性王国って呼ばれるくらい、階級社会がイカれている。



察して欲しい 。そんなイカれた国に乗り込む?アホか、俺は普通に生きたい。


働いて、寝て、食べて、いつかは、結婚して子供が出来て、子供に看取られながら死ぬ。

それか、腹上死がいいぜ。


普通が一番いい。


俺は、物凄い力もスキルもない。だから、無理なんだ。関わりたくない。


元王国の民には悪いがノブレス・オブリージュなんかクソ食らえ。


上級者より下の方の実力が近いだろう。


そんな俺は、友人であり、相棒のマッシュという同じ冒険者と一緒にパーティを組み、最近『薄暗の森』に採取目当てで入った。


いつもは、元侍従のエルヴィンと元近衛兵のクシャハ、元料理人のアラモードンがいるけど、今回はいない。


エルヴィンとクシャハは前回のクエストでひいた病で、現在、療養中。

アラモードンは、新作の料理が水の王国ヴェンネシアで有名になっているらしく、俺が許可を出して修行に行っている。


あ、お前、そんな年で採取とか低レベルすぎwwとか思っただろう。


だが、考えて欲しい。


スキル鑑定は、普通の奴は持ってねぇ。だから普通の冒険者は、本で調べた知恵を頼りに採取するのだ。


勿論、実際行ってみると、忘れていて逆に悲惨な目にあったりする。

覚えていても、実ってなかったり、季節が違うとかで全然ないとかあるんだ。


だからこそ、年中生えている薬草以外のクエストは、めんどくさいのだ。それは、熟練の冒険者が行う事が多い。


えーと、すまんな。時々、説教臭くなる時もあるんだな。


まぁ、そんな感じで、俺らは準備満タンで出発した。だが、俺の勘は嫌な予感がする。


珍しいレアな物が取れたりして俺らは凄いついてるなーって思った。


案の定、森で普段生息していない筈の成体の白竜が、採取している俺らを襲った。


命からがら逃げ出した俺らは、方向感覚がわからないくなり、森で休んでいた。


傷だらけの俺は警戒しながら体を休めていると、マッシュは少し進むと、不思議な森があるってきたんだ。


俺もマッシュの後を追い掛けて歩いた。


突如として目の前に珍しい白木で青い葉の木々があった。


俺はそれを見て、父親に教えられた昔話を思い出した。


『神隠しの森と愚者』


亡国の王子と村人が神隠しの森に行く話。王子はおごって崖下で死ぬのだ。

謙虚な村人だけが生還する。


ハハっ!

俺は昔話通りに死にたくない。他にも色々な逸話があるんだ。何故あの森が、そう呼ばれる様になった理由は、ここにあるのは事は、俺は知らなかったが、他の地域であるんだ。あの森が。


開拓に向かう男達と奴隷として連れていかれた珍しい種族の少年少女。

沢山の人が森に入ったのだけど、幾日経とうとも帰らない。

結果、男達の死んだ死体が、別の場所で発見された。だが、少年少女だけが戻らなかった。

そんな話が沢山この森で起こっている。



あはは、無事に帰って、祝杯をあげて寝たい。


マッシュは目を輝かせながら、行こうと急かして、俺は行きたくないと言うと、しびれを切らしたマッシュは駆け出した。


勿論、俺は神隠しの森とは反対方向へ一目散に走り出した。

父親に絶対に入るなと言われた言葉だけが俺の頭の中で巡っていた。


夢中で走っていたので、全く方向がわからくなった。


恐る恐る、大きな木に登ると街が見えた。その時、何か聞こえて、右をむけば崖が見えた。


俺は、何か気になり崖下の丘へ向かう。ついでに採取をしながら進む。


丘で見たのは、残念ながら昔話を再来する物だった。


高い所から、潰れて見るも無残な彼だろう残骸。


辺りには、血で汚れ、俺は近くに落ちていた枝で土を被せた。


唯一、彼の冒険者のタッグだけを持ち、石の墓石を置いた。


丘から去る前、風が吹き、偶然にも上を向いた。


それは、目を疑う光景だった。


黒のローブを着た乙女がクルクルと遥か上空で舞っている。


舞うのに、飽きたのか、急速に上がったり、下へ落ちる様に下がったりしてるのだ。


彼女は何者なのだろう。


風が吹き、俺の汗ばんだ髪を撫でていく。


あぁ。


今日は、なんて日だ。


竜が襲ったり、友は死ぬし、乙女が空を舞う。


摩訶不思議まかふしぎ過ぎる。


俺は、たぶん風の上位精霊が気まぐれに姿を消すのを、忘れただけだと、思う事にした。


彼女は、風の乙女と呼ぶ事にした。


勿論、顔など遠過ぎて見えない。


帰り道、白竜と再会するかと思ったが、風の乙女のおかげで、無事に帰れた。


その後、知った事だけど、スキルと称号が増えていて驚いた。


うん。

愚者にならなくて済んだから、神様が恵んで下さったのだと思う事にした。


俺は、たぶんこの出来事を忘れないのだろう。


一生。


俺もいつか、子供に言い聞かせるさ。


神隠しの森には、入ってはいけないと。


その選択は、運命を分ける選択だという事を。



__________________________________________


あれから、数日経った。


私、エルエはこのエデルフォールを、かなり探索した。結界クリスタルに魔力を補充して、飛行の魔術も練習した。


その結果、良い事と悪い事がある。


後味が悪くない様に、悪い事を話そう。


悪い事は、食料がもうない事。リンゴが残り少ない。そろそろ出発しなければならない。


良い事は、集めた素材でポーションと魔力ポーションを、沢山作った。錬金術って面白いという事がわかった。


街を探索していると、『ゴブリンでもわかる魔術の始め方』と『世界の不思議な種族達』という本を見つけた。

必死に読み、理解した。


教会にあった本を読んでいると、この大陸にある国々の名前がわかった。


何故、『楽園』に向かう理由も。

それは、魔族に襲われた事がわかった。討伐出来たが、やはり危険と判断して、向かったらしい。


教会の祭壇裏に地下室へ行く扉があった。物置みたいで、中には色々な道具があった。


その中で、一際輝く魔導石を見つけた。一つだけどこれで私が旅立っても安全であり、尚且つ、何処かで転送して帰れるのだ。

もう一つ、指輪を発見した。木の板の間にはまっていた指輪で鑑定したら、魔術媒体として使える程の一品だった。私の指にもぴったりはまり良かった。


最後に、飛行の魔術も習得出来た。急降下急上昇もできるし、着地も大丈夫。



さて、私は例のあの崖に来ている。


あの初めてこの世界に来てから、数日経った。

いや結構過ぎている。


変化の魔術で、私の髪の毛は茶色の髪になっている。


何で変えたのか。


それは、『世界の不思議な種族達』の本に書いてあった。



このサザルクォーク世界には、数多の種族がいるらしい。


人族。繁殖力に程々に優れ、数多の事を凡庸にこなす力を持つ。平均70〜80代までが寿命。

獣人族。 一部、獣の姿を持つ種族。力が強く、スタミナがある。繁殖力に一番優れる。但し、魔術系統は向いていない。短命で平均60代までが寿命。

エルフ族。 耳先が細長く尖っている。顔立ちが整っている者が多い。寿命も長い。魔術に優れ、弓の取り扱いに優れる。但し、守備が低い。肌が褐色のダークエルフも含める。彼らは、ただ肌の色が違うだけであり、同じである。

ドワーフ族 エルフ族の様に耳先が細長く尖っている。背が低く、筋骨隆々であり、守備が高く、頑丈で魔術はかなり抵抗力がある。魔術を当てられてもわからないほど。金属の扱いが上手で鍛冶職人が多い。寿命は平均200〜300代。

竜人族。 鱗や尻尾、翼などを持つ種族。耳先が細長く尖っていて、長命種族。ドワーフ同様、守備が高く、頑丈で魔術はかなり抵抗力があり、しかし、指先が器用な者は少ない。

小人族。 人族よりもずっと背が小さく、酒と食事と歌を楽しむ種族。 頭が賢く、手先が器用で、人族、ドワーフ族、エルフ族とも仲が良い。一つの街に留まる事を好み、旅をする小人族は珍しい。寿命は平均80〜100代。

精霊族。やく殆どが目に見えない種族。世界古来より、いる種族であり、該当するスキルが無くても見えるのら上位精霊かそれ以上となった者のみが見える。その寿命は計り知れなく、1日〜世界が終わるまでという者もいる。

妖精族。人間の姿をしたトンボの様な羽の生えた種族。コンパクトな手の平サイズから人族のサイズの者もいる。精霊族と同じで謎が多い。寿命も精霊族と同じく個体差がある。エルフ族、ドワーフ族、小人族、精霊族とも仲が良い。但し、闇側の感情などが苦手で、牙を向けた者には露骨にイタズラする。魔物のピクシーと一緒にされるとかなり怒るので注意。例えば、人族と猿を一緒にすることが挙げられる。

魔族 古くに魔神に瓜二つに創られた種族。各地に痕跡がある。かなり気性が荒く、脳筋とも言われている。魔力が高い。獣人族の様に様々な特徴を持ち、広く知られているセイレーンなど温和な者もいる。現在は大陸の北に位置する魔国に多く住む。特徴は黒髪が多い。


伝説上の種族


古代人族 古くに女神に瓜二つに創られた種族。各地に痕跡や遺跡が発見されており、居たはずだが、滅亡されていると言われている。耳が尖っていて、エルフ族の様に長命である。特徴は、銀髪。



うん。

私、このまま街降りたら、捕獲されてたかも。


危ねぇ。


なので、変化の魔術を使い、現在は茶色の髪になっている。

ステータスも隠蔽でかなり変更している。


髪や瞳の色について、本には基本的には、親の遺伝か、先祖返りで何世代前の色が現れたりするらしい。遺伝で決まる事が多いが、魔力が少ない両親から突然、大量の魔力を持った子供、通称『先天性突発型』が産まれる事があるらしい。その中でも、黒髪の子は多彩なる属性を持つ事が多いらしい。


属性とは人が持つもので、魔術を扱う以上、得手不得手があるらしい。

属性には、火、水、風、土。上位属性の光と闇。特殊属性の氷、雷、神聖魔術。

永年研究されているが、あるか疑念されている属性として、時、月。


判別方法は、教会で判別してもらうか、冒険者ギルドの測定鏡そくていきょうを使うか、魔石と神隠しの森に生えている白木と青葉を使う、『神理しんり方法』を使う様だ。


因みに私は、この最後の神理方法を使った。

本を読んだ私は、神隠しの森に入り、落ちている小枝と葉を沢山アイテムボックスに入れた。

ついでに採取しながら、木々に謝りながら、丸々一つ伐採して切り倒して、アイテムボックスに入れた。

葉は全部むしり取り、枝も切り、丸太も乾燥させた方がいいのかと思い、乾燥してから再びアイテムボックスに入れた。


記述通りに、各属性の魔石と小枝を地面に刺して、葉を置き、早速調べてみた。


魔石は、全てこの近郊の森の地面や小川に落ちていたもの。結局、全種類あったのは、神隠しの森だ。

流石である。

教会にあった本を読んでみて、わかったが、神隠しの森は、古代人族以外をかなり嫌う様で、弾き、消去するらしい。


この森を創ったのが、神だからではとクオンさんは思うらしい。私達、古代人族は女神に似せて創られた種族だから大丈夫なのではと、書かれている。



神聖魔術と時、月は流石にないけど、残りはあるから大丈夫だろう。


では、早速やってみよう。

刺した枝の中央に沢山の葉を置き、その上で手を置き、魔力を放つ。


結果、カサカサと動き、全ての属性に満遍なく散らばった。


そして、真ん中で、残りの葉が空中に浮かび、クルクルと回っている。


うん。

これは。どうなの?


都合よく、解釈したら全属性使えますよーって、事だろうか。


まぁ、そんな感じで私は使えると、過程して練習した。


それと常識として、本で知ったのだが、魔術は本来ならば長〜い呪文があるのだが、簡略化したのが魔術名だけを言う方法。これは詠唱破棄と言うらしく、訓練を積んだ者だけが行えるらしい。更にその上に無詠唱という者がある。イメージだけで行うので不安定で威力不足になりがちだが、使用時間がかからないので即座に反応して使用できるのが良い。

だが、他人の目があるならば普通に使う時は、魔術名を使った方が良いだろう。少々発生が遅いかもしれないが、そこまで気になる程ではない。


結果魔術は、《呪文》+《魔術名》+《イメージ》であるから、イメージを持たない一般人は魔術学校に行くらしい。

クオンさんの本には、外の国で魔術学校もあると書かれている。


賢者の石にまつわる話で始まるあの有名な映画の学校を思い浮かべた。


あんな感じかな。


私が無詠唱を使えたのは、アニメやゲームを見てたからだろう。


つまり、強いイメージがあれば呪文と魔術名なしでも発現できるのが無詠唱だと言う事だろう。

イメージをしてもできないのは、たぶんスキルレベルだと思う。

私は魔術がAだから無詠唱が可能だと思う。


強いイメージがあれば、魔術名は書いてある通りでは無くても良いらしい。

寧ろ、魔術名はイメージを縛るから、その個人がイメージしやすい物がいいらしいと、クオンさんは書いてあった。


あれから、今に至るのだけど。




風が早く行けと言わんばかりに、吹き抜けて行く。


そうだな。

そろそろ行くか。



私は、飛行の魔術を自身にかけて、崖を駆け出して飛ぶ。


空は突き抜ける様に青く広がり、風が私を追い越して、吹き抜けて行く。


ふと、下を向けば、足下に森が広がるのが見える。


私は空を飛び、先を急ぐ。


下を見ると、街道の様だ。


うん?


馬車が倒れている。何か人と人が斬り合っている様だ。


だが、関わりたくない。


うん。


見なかった事にしよう。


食料がないし、急がねば。


後をもうちょっとで、街だったのに、あの馬車の人も運が悪い。


街門からは、道が急カーブなので森の木々で見えないだろう。


森の木々の中に、私は降り立ち、隠密を解く。フードを被り森から出ると、街門の方へ歩き出す。


あら?


十字路で街とは違う方向から、人が来る。


青色の髪に、金色の瞳の美女が歩いてくる。


街へ向かっているのかと思い、私は街門へと歩き出した。


向かっていると後ろから、声をかけてきた。


「ねぇ、貴女はアレを助けないの?」


私は、振り返るとかなりの綺麗系美人がいた。


「私は、関係ないもの。」


驚きながら、私は答えると、その時、何か聞こえた様な気がした。


《…………………けて》


「そう?以外と貴女に関係あるかもよ?私はシヴァ。よろしくね。」


そう言って、私の腕を取り、さぁ行きましょうと言って歩き出した。


何でこんな事に、なったんだ。

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