4. 春祭り
「暗い所は苦手なんだよなあ…」
だがしかし仕事なんだから仕方ない。
と、言い切ってしまえればまだいいのだが、なんとも納得し難い成り行きでここに居るのは間違いない。
ひんやりした空気が流れている。
おどろおどろしい音楽が耳を覆う。
視覚ゼロ、聴覚が全てと言っても言い過ぎでは無いくらいである。
あ、ひんやりしてるのは分かるから、触覚?は多少ありそうだけど、殆ど誤差みたいなものだ。
手探りで前に進む。
探し物はなかなか見つかりそうに無い…
この街の春祭りは、多くの露店と、いくつかの催し物で賑わっている。
かなりの人出があるため、毎年それなりの迷子とそれなりの落とし物、それとちょっとした酔っ払いたちが実行委員会の悩みの種となっている。
そういうわけで、その悩みの種を解決する手助けをする事になって今年で数回目になるが、毎年そんなに大変な事は無かったのだ。
いや、今年だって特に大変な訳では無かったのである。
あそこで落し物さえ無ければ…
「では、お化け屋敷の中の何処かで落とされたんですね?」
「そうみたいなんです。出てきた時に、ふっと気が付いたので…」
「お化け屋敷に入る前はどうでしたか?」
「すぐ隣のスペースでお茶を飲んでまして、その時は確かに有りました」
「そうですか。それでしたら、確かにお化け屋敷になりますね」
困った、非常に困った。
暗い所も、お化けも苦手なのだ。
本物じゃ無いのは分かっている、がしかし、ねえ。
落とし主にわからないように、ふーっ、と一息ついて、お化け屋敷に向かったのが1時間前。
それからずっと、営業中だから照明を点けてもらうことも出来ず、暗闇の中をさまよっている。
何しろ小さい物だから、探しづらい。
うーん、どこなんだ!
「ねえねえ、さっきから何してるのー?」
「わーーーーっ!」
辺りは照明など点けてもらった覚えはないので、相変わらず真っ暗闇なままだ。
なんとなく声がしたであろう方向に目を向けるとうっすら人影が。
「ひーーーーっ!」
もうやだー、なんなのこれー。
「ねえ、何してたのー?」
少女が言う。
「あ、は、はい、あのね、こーんな、このくらいの物を探しててね」
「さっき、あっちで見たよー」
「え、本当?」
「うん、あっちー」
何か不自然な後ろ姿を追いかける。
「助かったー、探してたのこれだよ、ありがとう」
「そっかー、よかった」
気が動転してて気づかなかった事にふと気が付いた。
「あれ、そう言えば、1人?親御さんとかは?」
「ずっと1人だよ」
「え?」
「ん?」
「ずっと?」
「うん、そう、ずっとだよ」
ずっと、ってどのくらいなんだろうかと思いながら少女の足があるかどうかを確認しないようにした。
お化け屋敷で落し物が天使のモチーフのピアスだとか、出来すぎた話なんだよなあ、と思いながら出口は何処だか探し始めようとした、その時。
「出口、あっちだけど、帰っちゃうの?」
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