3. 求む通訳

 ひとえに探偵と言っても、扱う仕事はホームズやコナンのように殺人事件ばかりではない。

 聡明な読者の方は前の話まででお分かりだと思うが。

 え、読者って何の話ですか?って、難しい事はよくわからないんだ、気にしないでほしい。

 ともかく、探偵は地味な仕事が多いのだ。

 それに死体にはできれば逢いたくないものである。

 死体に逢って喜んだり、血が騒ぐのは一寸頭のネジの外れた人だと思う。

 そんな探偵も大変だとは思うが、この辺の探偵は別の悩みがあったりする。


「☆※×◯」

「は、え?」

「だから、☆※×◯」


 ご年配の依頼主の時ほどこの問題に遭いやすい。

 どうやら、医療の世界でもかなり問題になっているようで、そちらはそれ用の書籍まであるらしいのだ。

 だが、貧乏探偵としてはそんな書籍を買うほどの余裕は無いので、何とか会話で糸口を掴むしか無い。


「ああ、そういう事なんですね。ではこれでどうでしょう?」

「あ、それはダメだわ。%△$だから」

「%△¥って何ですか?」

「%△¥じゃないのさ、%△$」

「え、%△$ですか?それどういう意味でしょう?」


 まあ、つまり、問題になっているのは方言である。

 この問題が更にややこしいのは、隣町レベルで場所が変わっても言葉が変わってしまうところだ。

 きっと隣の県なんか外国語レベルで何を言っているか解らないだろうと想像する。

 東京だとか、地方都市でもほとんど標準語を話すような街を舞台にした小説なんかは本当に羨ましい。

 この辺みたいな田舎は言葉がネックだ。

 今すぐ引っ越したいところだが、タイトルがタイトルなだけに無理そうである。

 あ、さっきから、タイトルとか舞台とか言ってるが、無視してほしい。

 何かの勘違いだ。うん、きっとそうに違いない。


 この仕事を始めてから毎日が違う意味で勉強になっている。

 きっともう辞書が3冊くらいは書けるのではないだろうか。

 それでも四苦八苦しているのだけれど。

 さっきも野良猫を拾っていったら、ほしいのは農機具だと言われた。

 捕まえるのに3時間は余裕でかかったんだけどなあ。

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