2. とうきび畑でつかまえて

デヴィッド・カッパーフィールド的な自己紹介は後回しにせざるを得ない。

ただただ今は急がなくちゃいけない状況だ。

何せこのだだっ広いとうもろこし畑で、犯人を捕まえなくちゃいけない。

収穫直前の畑は、背の高いとうもろこしで一寸前すら見えない状況だ。

それに夏だからと言っても、山の中腹にあるこの畑は夜に近づくにつれて寒さが厳しくなる。

精々2時間くらいの間にはカタをつけたいところだ。

後それと、デヴィッド・カッパーフィールドは読んだことがない。

犯人を捕まえるまでの間に時間がある人は読んでおいてほしい。


「おーい!そっち行ったぞー!」

そんな事言われても、とうもろこしを掻き分ける音だけが聴こえてて姿は見えない。

自分を網だと思って待ち構えるしかないのだ。


ズザザザザッ


2m程脇を通り抜けた。

しかし姿はいまいち見えない。

追いかけるしかないよなあ、と思いつつ、汗を拭う。

畦に足を取られながらとうもろこしを掻き分けて走る。

相手の方が断然早いのはよく分かっているのに虚しい作業だ。

ちなみに収穫直前のこのとうもろこし、もし落としてしまったら買い取りである。

何本落としたら赤字なのか計算する前に畑に送り出されたが、よく考えたらこの仕事、詐欺なのではないか。

落としたところで、とうもろこしに簡単に傷が付くわけもない。

やはり詐欺だ。

あ、落とした。


走り回って早30分、どうやら、畑の角の方に犯人を追い詰めたようだ。

男たちが数人で固まっている。これはチャンスだ。

少し後ろの方でサポートするように言われたので、構えようとしたその時、額に鈍い衝撃が走った。


「大丈夫かい?」

えっと、ここはどこだっけ?

見知らぬおじさんに見つめられてるけど。

ああ、思い出した。犯人をやっとの事で追い詰めたんだっけ。

そして見知らぬおじさんは依頼主だった。

ああ、見覚えあるよ、確かに。

「お前さんとぶつかったお陰で、やっと捕まえることが出来たよ。助かったわ」

満面の笑みだけど、こっちは頭が痛いなあ。

たんこぶが出来てるんじゃなかろうか。

治療費請求してもいいかしら。


外から犯人らしき声が聞こえる。

「元気に鳴いてるわ。よかったよかった。さっき新しい首輪買ってきたからさ、今度は逃げないよ。ありがとう」

鎖も新しくした方がいいんじゃないですかね。

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