5.晴天の…… 『少女が対峙する、宿敵の少女』

訓練場の中心は、少し肌寒かった。

それもそうだろう、季節は十二月。如何に屋内であろうと、空調が整っていようと、じっとしているのは寒い。

だが実際の気温には反して、会場の熱は高かった。

イースフォウはぐるりと360度、会場内を見渡す。

人が多い。訓練場は現在、競技場のように壁側に特設された観客席がある。

そして、そこには人、人、人。いったいどこから集まってきたのだろうか、人だらけであった。

その殆どが、なにやら罵声とも声援ともわからぬ声を張り上げている。

こんな第一学年の試合でも、期待している者は多いらしい。

まあ観客の熱気に飲み込まれるほど、今のイースフォウは小心者ではなかったのだが……。

それよりも、もっと大きな存在が、目の前に居た。

少しはなれたところ、十メートルくらい先であろうか、赤髪の少女が、じっとこちらを見ている。

スカイライン・ヴァルリッツァー。迅雷のヴァルリッツァーと呼ばれる、自分と同い年で、自分と180度違う存在。

優秀で、自信家で、いつでも誰よりも速い彼女。

自分のことを散々に貶して、『曇天』という不名誉な二つなの名付け親。

イースフォウは胸元の伝機を天高く上げる。

「クロ! ヒール! 開放して!」

まばゆい光がイースフォウを包み込んだ。

「っふん」

スカイラインも伝機を天高くかざす。

次の瞬間、イースフォウの服は少々豪華に変化し、その手にはヴァルリッツァーオリジナルの伝機『ストーンエッジ』が現れる。

同じく、スカイラインの服装も真紅に染まる。そして、その手には彼女の伝機『レイレイン』。

イースフォウの展開したストーンエッジから、ヒールの声が響く。

「――フォウ、この一週間……いやあの日この戦いを申し込まれてからの日々全てを思い出すのよ!――」

「ええ、解っているわヒール。今までの全部を使わなきゃいけない」

ヒールの言葉に、イースフォウはそう返した。

「たった一つでも無駄に出来ないわ。全て出し切って戦わないと勝てない」

しかし、そのイースフォウの言葉にクロはいやらしく笑う。

「――へへ。しかしよう、フォウ。お前さん、こんなことをして何の意味があるっていうんだ? あいつに勝つと、なんか良いことがあるってのか?――」

イースフォウは、剣の柄の部分の黒い石を見つめる。

確かに、クロの言うことはもっともだ。ここでスカイラインに勝ったところで何に成るわけでも無い。せいぜい、ヴァルリッツァーの親族が驚いて、スカイラインが悔しがるだけ。それで終わりだ。

名誉はあるかもしれない。達成感もあるかもしれない。だが、だから如何したというのか。

だが、イースフォウはにっこりと笑う。

「さてね。それは勝ってから考えましょ」

一瞬、クロの反応が消えたように思えた。

しかし、次の瞬間クロは笑う。

「――っくっくっはっはっはは! なんだそりゃ――」

ヒールも笑っていた。

「――あははははは! なによそれ――」

「なによ、なんかおかしい?」

「――いや、だってなヒール?――」

「――そうね、そのセリフ。なんか貴方だんだんサードに似てきたわよ――」

「父さんに?」

思いもよらない評価であった。自分の父親ワイズサード。自分で言うのもなんだが、まったく違うタイプの人間である。

「――まあ、お前が悩みまくってた時は、どこからこの娘が生まれたのか不思議だったがな。今のお前は、適当なところがだいぶサードっぽい――」

「そうかなぁ」

そういいつつ、伝機を構える。

その矛先を向ける相手は、じっとこちらを見ている。

ふと、率直な感想がもれた。

「……やっぱり大きいわ」

オーラか、はたまたこちらのイメージか。イースフォウにはいつも目の前の少女は大きく、遠い存在に見えるのだ。

その呟きが聞こえたようで、スカイラインは鼻で笑う。

「違うわよ、貴方がちんけなだけよ」

相変わらず、スカイラインはイースフォウを見下す。

「……ま、否定はしないわ」

「なに? 今日はずいぶん物分りが良いわね?」

「事実は受け止めているだけよ。確かに私が小さいだけ」

今までずっと迷ってきた。今までずっと縮こまっていた。イースフォウは、そんな自分を認める。

しかし、イースフォウは言葉を続けた。

「でもね、つまり私が小さかっただけで、別に貴方がそこまで大きな存在じゃないってことよ」

そう、ただ単にイースフォウが小さかっただけ。

世の中を見ればもっと大きな存在など数え切れないはずだ。

「……どういう意味よ?」

「貴方が特別な子じゃないってこと。貴方よりも凄い子なんていくらでも居るわ」

「……少し会わない間に、私の力を忘れたのかしら」

スカイラインの表情が険しくなる。

だが、そんなスカイラインを気にせず、イースフォウは声を張り上げる。

「礼を言うわ、スカイライン。私にチャンスをくれたことをね!」

「……そろそろ開始の合図のようね。いいわ、弄ってあげる」

審判だかレフェリーだかが、二人の間に立つ。

「試合は十三分!どちらかが気絶、もしくはギブアップ、そして戦闘不能と考えられる状態に陥ったら終了。また、十三分試合が続いたら、判定にて勝敗を決める! 充伝器は使用不可。解ったか?」

「わかりました」

「問題ないわ」

イースフォウとスカイライン、両者が返事をする。

「では、両者構えろ!」

イースフォウはストーンエッジを構える。

一方スカイラインはレイレインをだらりと、ぶら下げるように持ち、まったく構えない。

しかし、審判はそれも問題としなかったのか、自分の手に、銃型の伝機を展開する。

そして、その伝機を上空に向ける。

「では……初め!」

そう言って音が大きく響く術を、伝機から発動させた。

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