springⅡ

予備校に通い始めてから一ヶ月が、過ぎた。速水律は相変わらず隣だ。しかしいつも疑問に思うのが、何故いつも居残って勉強しているのか、ということだ。頭良いからそこまで勉強しなくても良いのに、なんてつい皮肉っぽいことも思ってしまうわけだが。

でも、今日は違った。今日は用事があるのか知らないが、普通に帰る用意をしている。珍しいな、なんて思いながら私は塾を後にした。

いつも私は音楽を聴きながら帰っている。高校入学の時にお祝いとして買ってもらった、1つ旧式のスマートフォンにイヤホンを刺して好きな曲を聴き、好きなペースで歩いて帰る。早く家に帰りたい、なんて心做しか思ってしまい、私は早足で歩いた。

ふと、人の気配を感じた。いつもとは違う何かを感じさせるような気配。私は本能的に後ろを振り返った。すると、そこにはあの速水律がいた。何故いるのか。家が近いのか。そんな風に思いながら私はマンションの前に着いた。まだ、いる。付けてきているのか、と感じた。辺りは暗く、あいつの顔もあまり見えない。私は勇気を振り絞ってそいつに声をかけた。

「あ、あのさ、何でついてきて…るの…」

「…?」

そいつははて、と言わんばかりに拍子抜けした表情をしている。

「あのさ、俺別についてきてるわけじゃないんだけど…」

「へ?」

「だってここ俺の住んでるマンションだし…」

は、はぃい?!

マジですか!びっくりした…同じマンションだったとは…ついてくる、なんて言った手前、同じマンションだったなんて勘違いにも程がある。自意識過剰だ。恥ずかしい。

「ご、ごめんなさい…」

「ん」

苦笑いをしながらエレベーターに乗る。同じ階ではなさそうだ。

明日どんな顔すればいいのか、わからない…

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