第4話 怒られても、怒られても掘り進めると…

 まもなく、穴は母に見つけられた。


「穴を掘るなんて遊びは、すぐにやめなさい」


 悟史は首を横に振った。深くなるにつれて少しずつ表情を変えていく穴が、何か不思議なものが見つかりそうな穴が、いとおしく思えてきたのだ。


(僕が掘らなければ、続きは誰がやるというのだ?)


 悟史は穴の上に細い木の枝を格子に組み、その上に新聞紙を乗せて上から軽く土を被せて隠しておいた。


「あの穴は、もう埋めたよ」


 母には、明るくそう言った。


 その夜のことである。悟史は、穴の続きを掘っていた。またもやたくさん湧き出したムカデをすくっては放り投げ、ただただ深く掘り進めた。すると、ガチッという音がして、重い衝撃が手鍬の先から伝わってきた。穴の底には、たくさんの一文銭が敷き詰められていた。大喜びで一文銭を掘り出し、新聞紙の上に広げたところで目が覚めた。


 翌日悟史は、朝起きるとすぐに母の目を盗んで庭に出て、穴の続きを掘り始めた。すると、夢と同じく、手鍬の先からガチッという重い感触が伝わってきた。


「やった! 一文銭だ!」


 しかし、穴の底にあったのは、たくさんの丸い小石だった。悟史は肩を落として家に入った。


 穴は祖母にも見つかった。祖母はめったに見せない恐い顔をして悟史に言った。


「悟史ちゃん! 穴なんて、やたらと掘るものじゃないのよ。昔から、自分を埋める穴を掘るといって、縁起が悪いことなんだよ。そんな遊びはすぐにやめなさい」


 父も心配そうだった。


「掘るのはまだいい。でも埋めるのはもっと縁起が悪い。庭の大穴、一体どうするつもりなんだ?」


 しかし、悟史には分かっていた。掘るほどに表情を変える穴のすばらしさが。掘る努力に応えてくれるいじらしさが。


(縁起が悪いことなんて、あるものか。掘った先には、何かが僕を待っているんだ。僕が掘らなくて、いったい誰が掘るというんだ)


 何度怒られても、悟史は穴を掘るのを止めなかった。やがて、赤茶けた土の層も通り過ぎ、灰色の土に変わった。今度はところどころから炭の塊のようなものが出てきた。悟史は炭を掘り出して、家のブロック塀に落書きをした。


「穴の鉛筆、ザックザク」


あっという間に、ブロック塀は落書きだらけになった。


(今度はもっといいものが出てくるかもしれない)


 悟史はさらに、先へ先へと掘り進めた。もう、悟史の背の半分の深さがある。今度は、白く変色したたくさんのさざえのふたや貝殻が、湧き出すようにジャリジャリと現れた。


(大発見、大昔の貝塚かも?)


 悟史は大喜びで貝殻を掘り出して、学校に持って行って先生に見せてみた。残念ながら、貝殻やさざえのふたは、みんなただのゴミだった。家に帰った悟史は貝殻をすべて掻き出すと、さらに深く掘り続けた。


 「土の中には、けっして掘り出してはいけない物が埋まっていることがある。そしてそんなときに限って、人は無性に穴を掘りたくなるものだよ。悟史ちゃんは、何者かに導かれて掘らされているのかも…」


 祖母が心配そうにつぶやいた。

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