第3話 どんどん、どんどん深くなる

 雨の日曜日、悟史の掘った穴には、たちまち小さな水溜りが現れた。窓辺からそれを眺めていた悟史には、少しづつ水が溜まっていく様子が面白くてたまらない。水溜りは、雨がちょっと小降りになると、雨水が土に吸われて小さくなって消えかかり、そして本降りになると盛り返した。


「大きくなれ、大きくなれ!」


 悟史は、部屋の窓から手に汗握って水溜りを応援した。しかし、雨は間もなく止んでしまった。夕方には、遠くの山に虹がかかり、しばらく声を潜めていたセミの声が再びせわしなく聞こえてきた。悟史が再び穴に目をやった時には、水溜りは跡形もなく消えていた。


 翌日の放課後、悟史は学校から帰ると、すぐにスコップを握っては庭に飛び出した。雨水で緩んだ土は簡単に掘り返せる。どんどん深く、どんどん深く、ついに二の腕の深さまで掘り進めると、今度はたくさんの細い木の根っこが現れた。悟史は母から園芸用の小さな手鍬を借りてきて、細い根っこを叩き切った。スパッ、スパッと気持ちいい。切れた根っこの断面は、きれいなオレンジ色だった。


「手鍬は破壊力が違う!」


 そのまま手鍬で掘り進めると、穴はどんどん深くなった。悟史は穴を覗き込むようにしてひたすら掘り進めた。




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