第2話 ムカデの大群を乗り越えて

 恐る恐る穴の近くに戻り、うじゃうじゃいる赤いムカデの大群を眺めていると、足の親指の痛みがズキズキと蘇った。


 3日前の真夜中のことである。悟史は足の親指の激痛で飛び起きた。慌てて電灯のスイッチを入れると、大きな赤いムカデがすばやく布団の下にもぐりこもうとしているところだった。


「ムカデだ! 痛いよ、痛いよ……」


 悟史は、刺すような痛さに耐えられずに泣き叫んだ。慌てて父が駆けつけてきた。父は、悟史をほったらかしにして、布団をはぐりながら逃げたムカデを探し始めた。ようやく後から駆けつけた母が、悟史を抱きしめた。


「ムカデめ、ここに隠れていたか!」


 得意げな父の叫び声が、悟史の泣き声よりもさらに大きく響き渡った。父は、手元にあったタオルでムカデを包み込んで洗面所に持ち込むと、ポットの熱湯をかけて退治した。


「悟史、敵(かたき)はとったぞ!」


 一方、当の悟史は、刺すような足の痛みに耐えるので精一杯だった。母に親指にアンモニアを塗ってもらってようやく少し落ち着いたが、ズキズキする痛みで一晩中寝つけなかった。


「ええい、どけどけ! ムカデども!」


 悟史は、怒りを込めてスコップで穴からムカデをかき出した。


 気を取り直し、さらに奥へと掘り進めた。やがて黒っぽかった土は、いつの間にか赤茶けた色合いに変わり、だんご虫もみみずも、ムカデもいなくなった。


(この次は、土はどんな色になるのだろうか? そして、何が出てくるのだろうか?)


 悟史は、穴を掘ることが面白くてたまらない。しかし、土は掘るほどにどんどん固く引き締まり、ついに小さなプラスティックのスコップでは上滑りして歯が立たず、掘り進めるのが難しくなってきた。


「ガシッガシッ、ガシッガシッ」


 音だけが大きく響き、ちっとも先に掘り進めない。

 少しずつ飽きてきた頃、台所のから母が呼ぶ声が聞こえてきた。悟史は、スコップを投げ出すと、縁側から家の中に駆け込んだ。

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