穴の話

海辺野夏雲

第1話 庭先のくぼみ

 石野悟史の家の庭先には、「ペコン」と小さなくぼみができていた。小学生の悟史は、どういう訳か、このくぼみのことが気になって仕方がない。何かとてつもない秘密がありそうなのだ。でも、父に聞いても、母に聞いても何も知らないし、くぼみの存在にさえ気づいていない。


 そこで悟史は、この家の昔のことならなんでも知っている祖母に聞いてみた。


「おばあちゃんは、何十年もこの家に住んでいるけど、そんなくぼみなんか、今まで気がつかなかったねえ…」


 悟史以外は、家族の誰も気にも留めていない不思議なくぼみ。それでも悟史は、どういう訳か、ますますくぼみが気になって気になって、仕方がない。


(あのくぼみは、いったい何なのだろう?下には、一体何が埋まっているのだろう?)


 その思いは日ごとに強くなっていった。ある日、悟史は小学校から帰るやいなや庭に飛び出し、草の生えていない場所を選んで、くぼみの黒っぽい土を、小さなスコップでちょっとだけ掘り返してみた。土は意外にも柔らかく、簡単にスコップですくい出せた。


 こぶし大に掘り進めると、みみずや団子虫が湧き出した。悟史はスコップですくって小さな虫達をかきだすと、さらに深く掘っていった。牛乳ビンの深さまで掘り進めると、今度は赤っぽい小さなムカデがたくさん現れた。悟史は思わず後ろに飛びのいた。

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