第四話

 彼女は今何をしているだろうか、などと考えているとふと興味を引く内容がテレビから聞こえてきた。内容は、今日がイヴの誕生日だということ、誕生からちょうど四十周年だということだった。

 ヒトはいつの時代も記念日というものが好きらしい、そして今日はイヴの日という祝日になっている。ここ日本は昔は勤勉で働き者ばかりの国だったらしいが、今となっては祝日に働く者なんて一部の公務員と一部の古くさい人間くらいなものだろう。平和を通り越して堕落していた。だがそれについて誰も文句を言わない。人間さえもだ。人間もアンドロイドも働かないでいいのなら働きたくないのだ。人間の根本は堕落にある。ヒトからの評価が気になるから、働く。

 しかし、古くさい人間たちはこういう、

「人間ってのは働いて、人様の役に立ってようやく生きてるって実感できるんだ。それをやめてしまうのは死んだも同然ってことだ。まあ休息は必要だがな。」

 昔、高校生だった時はこの言葉に感銘を受けた。アンドロイドたちは働かないことに罪悪感を感じない、感じることができない。人間は他のヒトの役に立つために生きてる、であるから働かないことに罪悪感を感じてしまうものだ。

 そこに人間とアンドロイドの大きな違いがあると感じていた。人間であることはヒトの役に立つことでアンドロイドであることは自分のためだけに生きることなのだと、そう感じていた。

 今は、そうは感じない。自分のために生きることで社会を回していく。結果論ではあるが、自分のために働けばヒトのためになるものだと感じている。この考えは人間もアンドロイドも同じものだろう。だから誰も今の現状に文句を言わない。だからこの考えはアンドロイドになったからなのかどうかは分からない。例え違ったとしても自身を納得させるだけの言い訳だ、と感じるしかなかった。だがそんなことはどうでもよかった。今生きている、ということ。身体的にも、精神的にも。これが重要だった。

 何のために生きるかではない、生きることこそが重要だった。

 なぜこうまで生きようとしているのか、自分でも分かっていなかった。このままなあなあで生きていて良いのか、そんな葛藤はあっても、何のためともならずとも生きるしかなかったのだ。

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