エイスの策略(拳)


アヴァン・ゲルド街中にて自分自身で起こした恥ずかし騒動の後、クラストは「旅ノ肴」と書かれた宿屋兼居酒屋に来ていた。ここはエクス・ギャリバー盗難があった所とは別の所である。ちなみに、盗難のあった店は「月々宴」って名前だったりする...


「お金が無い...か...」


クラストは明日にはこの街を出て実家に帰ろうと考えていた。日持ち用の食材はあるとは言えお金が無かったのだ。ここの職員さんに申し訳なく席を一つ貸して貰い、明日以降の帰路についてを書面に計画していた。


缶詰を1日3個消費。

水は川から。

行きと同じ道のり。


もうすでに頭の中には、ルートとその他の最悪な出来事が起こったケース等の準備はバッチリであった。


「今日は野宿だなぁ。」


「旅ノ肴」の前にて野宿の許可も頂いたので、それらを計画通りに成功させれば帰宅出来ると考えていた。しかしまだまだ寝てしまうには時間が早い。明るい内にテント張りだとか人の目を集めるには十分過ぎる作業なので、このままどう暇を潰そうか悩んでいた。


「はぁ〜、憧れの都会も金が無ければ何も出来ないっか...」


からんからん...


昼なのにガヤガヤ雑音が聞こえるレベルに繁盛している旅ノ肴は、何人もの人が出入りしている。


「いらっしゃいませー!」

「失礼します。」


っと言って何故だが俺の方にまで向かってくる一人の女性がいた。


「こちらの席に相席しても?」


俺に言ってるのだろうか?しかしながら知り合い等存在していない俺には話しかけられる事は無いはずだが...


「す、すいません。今退きます、ね。」

「貴方に用が有りますので、相席しても?」


はてさてどうしたものか...、俺に用があるって言ってもな〜...初対面だし...、ってか何で俺なんかに用があるんだ?。


「お、俺...貴方に会った事も...き、聞いた事も無い...の、ですが...」

「そりゃあそうでしょうね。っでは許可を頂きましたので相席します。」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!!許可した覚えが無いのですが...」


その女は見事なまでに俺の話なんか聞かずに向かいの椅子に座ったのだった。


「私はエイス・ダーティエル。」


そして、エイス・ダーティエルは自身の事をこう述べたのだ「私こそ魔王を倒す勇者だ」っと。

見た所だと、勇者って何?美味しいの?って体格をしていて、ガッツリディフェンスよりは攻撃が盾です、な、薄着をしている。上はTシャツ、下はジーンズで申し訳程度に硬そうな腰当てをしていた。髪はベースがショートでもみあげ辺りをロングだ。他の色を受け付けない、光を当てると銀髪に見えてしまう様な白色の髪。


...そして、胸がデカかった...。


しかし、こんな色々と黄昏ている俺なんかに用があるなんて...こういう時に限って面倒臭い話をふっかけるのは相場であろうに。


「あの、マジでもういいんで。帰るんで。帰らせていただくんで。」


なんの迷いも無く立ち上がる俺を見たエイスは、俺の言葉を、予想したかの様な行動に出た。


...ドンッ!!


店のテーブルに叩きつけられたそれは、何処にでも売っているショートソードなものであった。


「この剣知っているか?」


俺はそれの判断が出来なかった。エックス・ギャリバーの見た目もそんな感じだからだ。かと言って勝手判断で発言してしまうのは相手にも自分にも悪いので、ここはひとつ...


「ショぉぅト...ショートソードですよ、ね?」


こんな時もブレないな俺は...


「ふむ、見た目はそれに近しいよな。」


確信に近いものを得た。確定ではないが多分エックス・ギャリバーだろう。


「ち、ちがうんですぅか?」

「これは伝説の剣エックス・ギャリバーだ。」

「そ、そうですか...えっ、と、自慢ですか?」

「シラを切るつもりらしいな。エックス・ギャリバーを抜いたクラスト・ウォーレンよ。」


まだここじゃない。

伝説の剣を抜いたのが俺って事を噂で聞いたのか?出どころは月々宴で間違いはないだろうけども、完璧に信用を持てる情報でも無いはずだ。

つまり、カマをかけられている...。

ここで一つ、俺はコミュ障解除域に達してしまった。感情の高ぶりや、俺の事を騙そう利用しようとされている時等に、コミュ障が解除されるのだ。原理は知らん。


「クラスト・ウォーレン?誰ですかそれは?伝説の剣を抜いた人だって?貴方が伝説の剣を持っているではないですか?」

「筋は良いが、そんな追い込みだったら商売人にはなれないな。」

「商売人?」

「例えだよ。商売人と話すならもうちょっとマシな嘘を用意するんだったね。」


改めるけども、俺はこの女を知らない。だから商売人どうこう言われてもねぇ〜。


「商売人だか知らないけども、俺はクラスト・ウォーレンって奴じゃないし、剣も抜いていない!!」

「月々宴って知っているな?」


ここで出所が月々宴に確定した訳だ。しかし、俺が鼻高兄さんになってた時は女性なんか居なかった気がするが...まぁ酔ってたけども...


「知ってたらどうだって言うんだ?」

「私の父の宿屋だ。」

「......えっ?」


マジで...


「そして、月々宴は私の実家だ。」

「......はい?」


本当に?...


「つまり、私はクラスト・ウォーレンの外見が分かっていて、伝説の剣を抜いた事も知っていたって事だ。」

「......は、はい。」


勘弁してぇぇ〜〜。

そうですね、全て空回りって事ですね。あぁ何故だろう。何でこんなに恥ずかしい出来事が当たり前の様に起こるのだろうか?なんてな。

とは言っても、嘘の可能性だってある訳だ。ここまで特定されてるってだけでも可能性は低いけども...。


「そこまで言うって事は何か重大な相談でもクラスト・ウォーレンに頼むんですかね?」

「ふふふ...認めないか。良いだろう。但し、聞いたらお前は引き返せないし逃さない。」


何つう条件だよ!!逃げ場無しじゃねぇか...いや、あるか...話しなんか聞かなければ良い。


「んでは、失礼しま〜」

「おりゃあ〜!!」


ドゴッ!


エイスの拳は、俺に声を出させないレベルに強かった。主に鳩尾な訳だが...。


「ちょっとの間我慢してくれよ。」

「.........。」


不思議と苦しくはなかった。ただ痛いだけ。

エイスは俺の顔を覗き込んで、軽く「えっ...」っと漏らしてから、考えて考えてウーンっと顔をしながら、効果音で「まっ、いっか」と聞こえそうな清々しい顔をした。そのまま俺を肩に担ぎ、旅ノ肴を後にしたのだった。

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