恥ずかしの勇者
朝...である。
「剣がねぇぇぇ!」
どうなってやがる。
扉に鍵は掛かっていたはずだ。″鍵開け″の技術か?そうしたら盗賊の仕業だ。
「くそっ、盗賊め!探し出してやる。」
この宿は二階建てであり窓は付いていない。
一階は夜に居酒屋となる為、二階への移動は宿泊客のみとなる。
その場合、店主が客の顔を覚えているはずだ。
「一階に行って、店主に話を聞こう!」
エクス・ギャリバーを盗まれたイライラを堪えつつ、寝起きの足でゆっくりと階段を降りた。
「おぅ、おはよう。昨日の酒の飲みっぷりから昼までは起きて来ないと思ったが、若いってのは良いな〜。」
「いや〜それ程でも...って違〜う!」
一旦落ち着け俺!酒が入ったら普通に話せるんだから、コミュ障じゃないんだから...
「店主!、昨日の夜に宿泊客以外で二階に来た人はいたか?」
「どうしたってんだ?青臭い顔して?例の伝説の剣だか盗まれたってか?」
ガッハッハと大口を開け憎らしく笑う店主に腹がたつ。
「笑い事じゃねぇ!!」
「嫌違う、わ・ら・い・ご・とだよこれは。」
「こっちは客だぞ!ちゃんと対応してくれよ!」
只でさえ一大事だってのに。
「そりゃ、あんちゃんが悪い。盗られたもんの価値がわからず公の場に晒したんだからな。」
この白髪じじいは何を言って...
「いいか?伝説の剣は魔王を倒す為に生まれた様な代物と聞く。魔王を倒せば名が売れ、金や女には困らなくなる。そして、その剣を売れば一生の金、使えば勇者御一行に大金払ってでも入りたいってやつは沢山いる。ついでに女だ!盗まれたっていうのはあんちゃんの物の価値知らずが故だ。」
「盗まれた方が悪いってか!」
「だからそれを、盗まれる工程を考えて工夫をしたのかって話だ。」
確かに、俺は盗まれるなんて思ってもいなかった。勇者になれたと浮かれていたからだ。
「宿賃はいいから、さっさと行く事だ。二階から一時間ほど前に見知らぬ物音がしたから、街の外には出ていないはずさ。」
やっぱり誰か″鍵開け″をして中に入ってきたんだ。このじじい良い奴だな。
「ありがとう店主!また来た時に払うから。」
「おう、気ぃつけてな!」
自分の持ち物を整理して無我夢中の様に走って店を後にした。
そういえば、何で金まで無いって分かったんだろうか?まっ、いっか!。
〜アヴァンゲルド街中〜
俺はクラスト・ウォーレン。勇者になった男だ。こんな事ではくじけないぞ...
泣きそう...
「ここどこだよぉ〜、わからないよぉ〜。」
まさか抜けるとは思わずに、この世界の発展五カ国の一つ、アヴァンゲルドに観光(ついでに剣)で来たはずなのにこんな事になるなんて。
ついてない。やけについてない。今年は大吉だったのに...
これから、無性にキョロキョロしたがるウォーレンは初めてその癖に感謝する事になる。
「あっ、あれは魔科警察か?」
この世界の警察は二種類存在する。
体科警察と魔科警察だ。
体科警察は主に肉弾戦。近距離戦闘と遠距離攻撃のかわし方を学ぶ。それ故事件の解決は早期で、スタミナの多さから一日に何件もの事件を解決する。
逆に魔科警察は頭脳戦。広範囲での索敵や情報戦闘を学び、自身を守る魔法を主流として遠距離攻撃を度々というものだ。事件解決は的確であり誤認を防ぐ役割もしている。
ウォーレンが魔科警察を見つけたのは都合が良い。見知らぬ街で人探しなど、この大都市じゃあ日が暮れても終わらない。
俺はコミュ障ではない...俺はコミュ障ではない...俺はコミュ障ではない...
「すぅぃ..ませぇん...」
うぐっ、誰か俺を殺せ!
「はいっ、なんでしょうか?」
笑顔が痛い!
「あっ..あっ..あの...ですね..!」
「はい?」
「な..名が..知れた..盗賊とか..いませんか?」
「すいません、私警察ではないんですよ。」
な、何ぃぃ〜!
しまった、やらかした。魔科警察の制服きてるからてっきり...んっ、制服...。
「あ、あのぅ...制服は魔科警察にしか配給されないはずでわぁ...」
普通はそうなのだ。警察の制服が中古店に並ぶのはおかしいはずだし、自分で作るにしても所々に魔力の破片を入れないといけないから裁縫師の上位ランクのスキルになる。単職で上位ランクになるには30歳以降からだし、ここまでの再現率はこの制服の工程を見ていないとできないレベルだ...
って、俺は何を考えてるんだ。まるで女性を視姦してるおっさんみたいではないか。
「あっ、えぇと。...昔、魔科警察だったんですよ〜。たまに着てみて昔を思い出してたみたいな...」
「あ、あぁ、そ...そういうこと...ハハハ...」
はい、しゅう〜〜りょ〜〜〜う。変人確定、変人確定ですぅ〜〜。
「すいませんでした。さようなら!!」
バシュッ!!
俺は無我夢中にその場から走り去っていった。
最後に見えた彼女の顔はなんだか怖かった。後、何か走る時に変な音が聞こえた様な...?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます