第4話 サナトリウム内
食堂は作業室を二つ過ぎた先にあった。広さは二十畳ほどで机と椅子がならべられている。時間が十時前ということもあり、人の姿はなかった。厨房があることから専属の調理担当者を雇っているのだろうか。自販機は厨房から真逆の机を挟んだ向かいにあった。二台並び、一台はワントリー・ビバレッジの物で、もう一台は競合他社の物だった。
神影は通信処理に使われる小型ゲーム機程の大きさのポータブルを通信ポートに充てた。これで、売り上げや内部在庫など、自販機内の情報が分かる仕組みになっている。
補充量はさほどではない。これならすぐ終わらせられそうだ。神影はトラックから製品を台車に積んで運び出し、早々と補充を終わらせ、事務所に声をかけた。先ほどの事務員の女が、相変わらず淡々とした受け答えで応対した。
逃げるようにして靴を履いたところで声をかけられた。男の声だ。
「今日はいつものお兄さんじゃないんだね」
白衣を着た痩躯な男だった。灰色がかった髪はマッシュルームのようなショートカットで白髪が混じっている。黒縁の眼鏡をかけていて、口元に笑顔を浮かべていたが、レンズの奥の眼光は鋭かった。
「ええ、急遽休みになったので代わりに私が」
「そうか。あまり大変で担当が変わったのかと思ったよ。君の会社も大変だね。特に今の時期は飲み物が売れるだろう」
ここの売り上げがさほどではなかったのは、きっと食堂や各部屋に空調が完備されている為なのだろう。神影は返答に困り、はは、と笑い声を漏らした。
「あいさつがまだだったね。私はこういう者です。いつものお兄さんが復帰したらよろしく伝えておいてください」
男は白衣のポケットから一枚の紙片を取り出した。『楠サナトリウム 代表 楠 隼人』と書かれた名刺だった。
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