第2話 悪夢の続き

赤い塗装が施されたトラックはさながら消防車のようだった。トラックは市街地を抜け、山岳地帯へと入っていく。途中、遠足なのかジャージ姿の小学生の列がトラックを指差して、ワントリー、ワントリー、と叫んでいた。

ワントリー・ビバレッジ。自動販売機の補充を主とする会社だ。全国規模のメーカーで神影の勤める支店には三十人程の従業員がいる。チームは四つに分かれ、エリアで区切られている。北エリア、東エリア、西エリア、南エリアといった具合に。大崎がリーダーを勤める南チームはその名の通り南エリアを担当している。

神影は時折トラックを止め、手元の地図を確認する。

「この地図じゃな……」

大崎に伝えた通り、石尾のルートは二、三十件しか知らなかった。それもおぼろげな記憶だ。今朝方大崎に書いてもらった地図は白い紙に糸グズを散りばめたように曖昧なもので、分かりにくかった。

仕方なく、地図アプリを広げる。

「くそ、圏外か」

位置情報を確認できず、使い物にならなかった。途方に暮れてハンドルに上半身を預けて周囲を見渡す。右手には木造の学校や小さな交番、左手は延々と田園が続き、青々とした稲穂が絨毯のように広がっている。拓けた土地だ。悪くいえば殺風景といったところだろうか。行く先の道路はY字形に二手に分かれていた。正確にいえば、まっすぐ伸びた道に右手に細い坂道が付け足されたという印象だった。

「ん?」

その右手の坂道に白い看板が立て掛けられている。羽子板を白く塗ったようなその看板に縦書きで黒い文字が書かれていた。

『手越山入口』

坂道の先は鬱蒼と茂った小楢の葉が影を落としていて、先がよく見えなかった。トラック一台通るのがぎりぎりの車幅だろう。神影はその光景に既視感を覚えた。何だろう。自分はここを遥か昔から知っているような気がする。例えば動物が、野生の勘で自分の巣穴へと戻るように必然的なものに感じられた。

「行ってみるか」

神影はアクセルを踏み込み、坂道を登っていった。

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