15 時の重さ 9/23
〇2005年9月23日(金)
解散したのは、朝の8時だね。あやねのヒールの足音がよく聞こえて、どんどん遠ざかっていって……でも私は、振り返らなかったよ。
今日は、お互い本当のことを大里君に伝える日。
いったいどうなるんだろう? 一限の授業を受けていたら、本当に胸が苦しくて……苦しくて。なんだこれは? って感じで、いまもあやねとキスしてる感じで……でも離れなきゃいけないって考えると、本当に苦しくって、おかしくなりそうだった。
「え? なんで!? どうしてこんなにお互い愛し合っているのに、離れるとか、付き合えないって選択肢が用意されているの?」
この思考がぐるぐると回り続けていて、無性にやるせなくて、悲しくて、午前中の授業はまったくの上の空だった。
でもね、公園でずーっとあやねと二人でいて、あやねが私のことを愛してくれているって、ほんとうに心の底から分かったよ。
この気持ちを信じてあげられなかったら、本当に人間失格だよ。信じます。絶対!! 私とは一緒になれないって言っている、あやねの方がもっともっと苦しいかもしれないんだから。私はワガママしか言えてないね……。あやねごめんね。
でも、今日はあやねのことよりも、大里君と会うことだよね。トイレの中でね、二人が会って別れたあとに、大里君に送るためのメールを作っていたら……また泣いてしまった。トイレから動けなくなった。涙がいっぱいこぼれ落ちた。
今日うまくいくのかな。
三人の関係が壊れただけとか……ほんとうに最悪だよ。
それだけは、それだけは絶対に無理だって。
あやねによると、夕方に会うらしいね。大里君はあやねに、いったいなんて言うのだろう。
私は、どうしよう?
もう、部活にいっている場合じゃないよ。さぼるのなんてはじめてだ。
そして、いろんなところでぼーっとして、私と大里君の最寄駅に、3時30分くらいに着きました。一時間後に、あやねから「今から大里君に会う」ってメールが来た。
……、ぜんぜん終わらない……。
駅の外のベンチで待っていると、どんどん暗くなってきて……本当に苦しくって……。苦しい。苦しいよ……。どうしてこんなに長いの? 待つって、こんなに苦しいんだ……。
早くしてよ。苦しいよ……。もう、4時間近くたったよ……。
どういう話をしているの?
大里君が、別れたくないって言ってるんだろうな。そうすると……、あやねと大里君は別れて、私とあやねは付き合えないだろうし、私と大里君の友情も壊れるってこと? どうしよう……。どうなってるの? 長い。長いよ……。苦しいよ……。
いま、ずっと考えているのはさ、大里君があやねのこと好きで別れたくないって言うのならば、私はあやねから離れなければいけないのでは? ってこと。
だって、あきらかに大里君の邪魔だよ、私は。
でも、あやねは私のことすんごく愛してくれてるの。そして私も、あやねのことすんごく愛しているよ。
完全に両想いなのに、大里君に邪魔もの扱いされたからって、あやねの前からいなくなっていいの?
そんなことしたら、私のことを好きになってくれたあやねの気持ちはどうなるの?
大里君があやねのこと好きで別れたくないって言っても、私は引かない。あやねへの私の愛する想いはホンモノだから。絶対に引かない。諦めない。……そんなことを考えていたら、あやねからメールが来ました。
大里君と別れたとのこと。
自分の想いは美紗都さんにはまだ伝えてなくて、美紗都さんがあたしのこと好きかどうか分からないって説明したらしいね。
別れる理由は、「あたしが今、大里君と美紗都さんの間で、どっちつかずの状態でいるから」だね。
でも、私は、はっきりと大里君にあやねのこと好きだって伝えたよ。大里君は怒ったりしないし、うちらの仲は壊れないだろうけど、そりゃ、彼女と別れるんだもん。大里君だって嫌に決まっているよね。
「大里君に気を遣うのはおかしいから……全部ほんとうのことを言うよ。私は磯山さんのことが好きで、そのことを諦めないから。私は磯山さんと一緒になれるように頑張るから!」って何回も言ったんだ。そしたら大里君から、
「あいつは俺と別れたあとも、美紗都とは付き合う気ないよ」って釘をさされた。知ってるって……。ってか、あやねは、大里君にもそう言ったんだね。それじゃ……、やっぱりほんとうに私と付き合う気ないのかな……。
あやねは、「大里君と美紗都さん、大里君が1位になったり、美紗都さんが1位になったりして、フラフラしている自分が嫌だから別れる」って言ったらしいね。
よく、それで大里君は納得するなあ。
あやねって、この自分の考えを全然変えないよね。
そうそう。今まで一度もあやねに怖くて聞けなかったこと。
あやねが私のこと好きでいてくれることはもうわかったよ。私はそれで十分だけど……、大里君のことをどれくらい好きなのかってことは……聞いたことないね。大里君に話した通り、いまも大里君のほうが私を飛び越えていったりするのかなあ。そうだったら悲しいよ。
だとしたら……それが私と一緒になれない理由なの?
あやねは大里君にも、「美紗都さんと付き合うつもりはない」って言ったんだね……。もう……正直よくわからなくなった。混乱してきた。私はどうすればいいの? あやねのこと好きでいちゃダメなの? そんなの……そんなのあんまりだよ。
私って、両想いなのに振られちゃうんだ。これからどうすればいいかわかんないよ。公園で過ごしたあの時間は、いったい何のためにあったの?
あんな出来事があっても、あやねはまだ、
「美紗都さんと一緒にはなれないよ」って思ってるの?
あやねは……、私とお互いに深く愛し合っているという想いを大切にしないの? どうして? どうしてなの……。
昨日公園で言ってくれた、好き……好き……って言葉、信じちゃいけないの? もう、ほんとうにどうしたらいいの。
いや……私は絶対に信じるし、忘れられないからね。絶対に、あのときのあやねを信じる。やっぱり私は、あやねのことが好き。
手をつないで歩いたとき、うちらはたしかにひとつだったよ。
頑固に、「美紗都さんと一緒になれない」って言っているあやねのことも好き。まだ、大里君のことを忘れられなくても、……それでもかまわないもん。ほんとう、それでもいいからあやねに愛されていたい。
こんなに複雑な関係で、好きな人になるはずもない関係なのにお互い好きになってしまって、二人とも過ちを犯して……それでも……お互いが好きになったんだよ!
あやね、この気持ちを大切にして!
わかってほしい。大里君がどうとか、関係ないよ。私のところにきて。
私はね、一晩中公園で過ごしたことを、「一緒になってもいいよ」ってメッセージだと理解したんだよ。そう思っていたいのに、あやねは今日別れるときに大里君に対して、
「美紗都さんに今の気持ちを言うつもりはない」
「別れたあとも美紗都さんに好きっていうつもりはない」って、言ったらしいね。大里君が教えてくれたよ。
ウソついてるじゃんか!
すごくショックだよ。どうして正直に言わなかったの? 大里君に嫌われるのが怖かったの? 自分自身を守るために、ウソついたの?
私は、あやねのウソにあわせて大里君と会話をしたりしたんだよ。どんな気持ちだったかわかる? あやねは今後、私とどうするつもりなの?
やっぱり、私はあやねと付き合うことを諦めたくないよ。
もう、あやねと大里君はセットで考えない。そのために、「大里君のことを気にしないで、私は磯山さんと一緒になれるように努力するんだ!」って何回も言ったんだ。そのことで、大里君ときまずくなったりはしないってことが、わかったから。
だから、今日から私はあやねのことしか考えないよ。
もうあやねは、一人なんだから。
どうか、私のことを選んでください。選んでもらえるような人間になりたい。ほんとう、ほんとうにあやねと一緒にいたい。この気持ちを大切にして……私はこれからを頑張ることにするよ。
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