14 特別な夜 9/22



〇2005年9月22日(木)


 こんなに仲良しなのに、今日が部活外で会う初めての日なんだよねえ。あやねは、沖縄旅行を楽しんできたのかな。傷ついてはいないみたいだね。一安心だよ。

 このあいだに私の中では大きな変化が。


 ……、もう完全に、優先順位が「大里君一番、あやね二番」じゃなくなってる。

 これ、いいのかな。自信が持てないよ。

 ほんとうは絶対にダメだよね。そんなことわかってるよ。でも……もう無理なんだもん。

 いまは、あやねと大里君がうまくいってほしいって思えないのかな。恋の相談相手のフリはできても、本心では、大里君との恋を応援できないのかもしれない。

 あやねを自分のものにしたいって思うことが、こわい。恐ろしいよ。

 そんなことしたら、私と大里君の仲はどうなっちゃうんだろう。小学校からの、特別な存在である彼。目の前から、消えてなくなってしまうかもしれない。

 ひょっとして、あやねにも嫌われてしまうのかな。

 そもそも、今日私たちは、いったい何を話すのだろう。どうやって大里君に別れ話をするのか、私は相談に乗ればいいのかな。よくわからないよ。

 

 そして、会いました。

 ご飯を食べたあと公園で、あやねがね、

「旅行楽しかったよ」

「大里君と別れたくないって思ってしまった」

「でも、それは大里君が可哀想って思うから」

「こんな気持ちで付き合っちゃダメだよね」

 いろいろな気持ちを、教えてくれたね。


 うん。知ってるよ。

 あやねが大里君のことを嫌いになって、別れたいって言っているわけじゃないってことをね。でも、正直これを聞くのは嫌だった。あやねが私のことを好きでいてくれることはわかっていたけど、大里君のことも、まだ想い続けているんだよね。大里君のこと嫌いになっていないからこそ、旅行にいけたんだもんね。

 旅行最終日の夜、横で寝ている大里君が、あやねに送ったメールのこと。

「ありがとう……って言葉に猛烈に感動した。彩音と付き合えて本当によかった」ってやつね。あれは正直、私も感動しました。

 言葉にできないところが、ほんとうに大里君らしいね。

 やっぱり大里君とあやねは良いカップルなんだよ。私だって、ずっと応援してきたんだから。

 ……ほんとう、私っていったいなんなのかなって思った。二人にとって、いらない存在じゃん。悲しいよ……。うん。本当に悲しかった。邪魔ものだよね。


 このメールの話を聞いたあとにさ、まだ直接はっきりとは言っていなかった、私のあやねへの想いをついに伝えたんだよね。

 この日が、あやねへの告白の日だね。 


 ……目が合って、あやねが目を半分くらい瞑って……最初は、「本当に、いいの?」って気持ちがどうしてもあって……。傷つけていたらごめんね。

 ただ、二回目は、自分に素直になることにしたよ。

 あやねの唇は、寒空のせいか、まだ冷たくて。でも、重ねていると、だんだんと暖かくなってきたんだ。


 いったい、どれくらいの時間こうしていたんだろう。このときの記憶が、はっきりしないんだよ。公園の時計をね、たまに見ていたんだけどね。唇を重ねるでしょう? そして、また時計を見るの。すると、もう何十分も経っていたり、時が進んでないと思ったり。時間の感覚がズレていくんだよ。くるくると回り続けているの。

 コンビニにいったよね。それは覚えているよ。なぜかって? あやねがね、私の手をつかんで、離さなかったから。あやねが買った、ホットミルクティーの味も覚えているよ。唇を重ねるとね、優しく口の中にひろがってきてたからだよ。

 ほんとうに、ほんとうに二人は一緒になっている。これは、絶対ウソではなくてほんとうなんだよ。あやねがこの夜、私にかけてくれた言葉の数々。恋人同士でしかできないことも、自然だった。することが、自然なの。だって私たち、6時間くらい、ずっとキスしていたんだよ。

 

 夜が明けて、公園をあとにして、デニーズで大里君の話をしたね。二人とも、現実の世界に戻ってきちゃったね。

 あやねも私も、明日大里君に会いにいきます。

 どうか、どうか大里君に想いが伝わりますように。許してくれなくてもいいからさ。

 公園でね、あやねが好き……好き……って、消え入りそうな声で囁きながらキスしてくれたでしょ。あれは、一生忘れないと思う。夜中の公園で、一番思い出に残った瞬間。かけがえのない大切な言葉。絶対、忘れないよ。

 あの言葉を、自分の好きな人に言われてさ、「離れる」なんて結論が出せる人なんて、世界中どこ探したっていないよ……。バカだよ、あやねは。本当に……。

 そのくらい、心に刻まれた時間だった。この先どうなるかまだわからないけど……、

 あやね! ほんとうにありがとう。

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