エレベーター密室編(前編)
底使ちゃんは地の底からやってくる。
絹のように真っ白なおかっぱに、夜の森の向こうのように黒い外套に身を包んでやってくる。
底使ちゃんは今回は地上まで上がらなかった。
つまり、彼女が乗っているエレベーターは地下にあった。
地下三階からエレベーターで上がり、途中の地階二階で止まる。
エレベーターの扉が開き、乗ってきたのは金髪の毛先を四方八方に尖らせパイナップルを思い出させる男だった。黒い革ジャンの下におどろおどろしいドクロの描かれた、これまた黒いTシャツを着ている。ピアスが二個耳を通っていた。ジーンズから取り出したスマートフォンを睨み、底使ちゃんには一瞥もくれずにくるりと体を反転させた。
エレベーターの扉が閉まり、特有の重力が一瞬歪むような感覚の後、上に向かって箱が上がる。
しかし扉の上にある階層表示を表す光が地下二階から地下一階になる前に突然にガタン、と大きくエレベーターが揺れる。同時に箱を動かしていたモーターの低い音がしぼむように消え、重力の歪みがなくなった。汚く、弱々しかった白色電灯が消えて暗くなる。すぐさまに非常用の淡い光となる。
「うそだろ、おい」
エレベーターの上部の階層表示を表す光も消えていた。
男は階数ボタンを一度殴ったが、うんともすんともエレベーターは動かない。
続けて非常ボタンを押すが、カチカチと虚しく鳴るだけで、マイクの先から、エレベーター内を心配する声は聞こえてこなかった。
男はさらにエレベーターの扉を強く蹴るが、冷たい拒絶するような音が一度鳴ったあとは静かだった。
「くそっ」
苦虫を噛み潰した顔をして男が悪態をつく。しかし、すぐに顔を明るくした。
「そうだ、ケータイがあるじゃねぇか」
取り出したスマートフォンの明かりが男の顔を照らした。その顔がスマートフォンを覗くと歪む。スマートフォンには「圏外」と表示されていた。
舌打ちをして電波が届く場所を探してエレベーター内を移動する。
そこで、底使ちゃんの体にぶつかりそうになった。
「うおっ」
男が声をあげて大きく飛び退いた。すぐに睨んで声を上げる。
「いつからいやがった!」
「最初からよ」
底使ちゃんは静かに答えた。
「名前は?」
「私は底使ちゃん」
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