病室編(前編)

底使ちゃんは地の底からやってくる。

主にエレベータを使ってやってくる。

雪のように真っ白なおかっぱ頭で、蛇の口の中のように黒い外套に身を包んでやってくる。


今日の底使ちゃんが乗っているエレベータのくたびれた扉がガタンと大きな音を立てて開いた。

リノリウムのツルツルとした床の上を底使ちゃんは歩いていく。

そこは病院だった。

建物の外では昇りきった太陽に照らされた蝉が叫び声をあげるように鳴いている。

山奥にあるからなのか、平日の昼間だからなのか病院内の人はまばらだった。

暑さにだるそうにしている看護婦が底使ちゃんに気がつかず、廊下を横切って部屋に入っていった。

院内は影を少しでも増やしたいようで電気はついておらず、窓から入ってくる外の強い日差しだけが中を明るくしていた。

長く続く一本のリノリウムの廊下にいくつもの部屋があったが、その中の一つの前で底使ちゃんは止まった。

中に入ると、四つのベットが四角い部屋の四隅にそれぞれ置いてあった。

時折緩やかに吹く風が窓辺の白いレースのカーテンを揺らす。

その内の一つ、入って手前の右側のベットの上にいた男の子が底使ちゃんに気がついた。

「君は誰だい」

白髪のおかっぱの底使ちゃんに声をかけた。

「わたしは底使ちゃん、死を見に来たの」

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