第9話 突然の出会い

「こんにちは、レティさん。今日は名指し依頼は来てますか?」

「いらっしゃい、カズマさん。うーん。トリーシャさんたちへの依頼は特にないですね」


 俺は今日もトリーシャパーティーの下っ端として、ギルドに出向いている。

 別にこき使われているわけではなく、自分で志願してやっていることだ。


 積極的にギルドに出向くことで、顔も覚えてもらえるし、いろいろ情報も手に入る。

 地味でもなんでも、パーティーに貢献すれば、仲間として受け入れてもらえるだろう。

 いかにトリーシャたちが気持ちのいい人間の集まりだとしても、こっちが何か落ち着かないからなぁ。

 ちょっとでも役に立っていれば、俺も遠慮しないで済む。


「じゃあ、掲示板を拝見します」

「はい、どうぞ。いい依頼があるといいですね」


 掲示板に掲載された依頼書に目を通していく。

 しかし正直にいうと、頭を素通りしてしまって、記憶にほとんど残らなかった。

 つい考え込んでしまっていたからだ。


 ラドルに会いに行くと決めたものの、すぐに動けるはずもなかった。

 クレーフェ伯領は、このロンディニムから南西へ、馬車で順当に行って5日ほどの距離にある。

 ちょっと行ってきます、と軽く行ける距離ではないし、準備も必要だ。


 それに、引っかかっていることがある。

 ヴァクーナの言葉だ。

 白い女神様は夢のお告げで、こうおっしゃった。


『今回、貴方が会った人たちと当分一緒に行動してください』


 ということは、第2のフラグを立てるためにはトリーシャたちの側にいることが必要で、別行動をとってはいけないのではないだろうか。


 しかし、今のところなんの変化も事件も起きていない。

 この前のザルバ種討伐は確かに特殊な出来事だったけれど、フラグに繋がるような点は見当たらなかった。


 もしもフラグが立ったのなら、ヴァクーナが夢枕に立って次の指示を出しそうなものだ。

 お告げがないということは、ザルバ討伐はフラグと関係がないのか、あったとしてもきっかけ程度なのだろう。


 どうにも情報がなさすぎて、身動きが取れない。

 ヴァクーナは『自ずと分かる』なんて言っていたけれど、ぜんぜん分からないぞ。

 詐欺か? 詐欺なのか、女神様!


 ……そんなはずはないよなぁ。本気でフォローすると言っていたのだから。

 今回は彼女の最終目的なのだから、手を抜くことはないだろう。


「もう少し様子を見てから考えるかな……」


 焦って動いてもろくなことにならない。

 106回の死に戻り経験で、それは理解してはいるのだけれど、もやもやするなぁ。

 思わずため息が漏れた。


「あら。いい依頼がなかった?」


 どうやら勘違いされたらしい。レティさんが困ったように笑いながら声をかけてきた。


「……ええ、まぁ、そんなところです」

「トリーシャさんたちは、評価が高いパーティーですから。見合った依頼となるとなかなかないですよね」

「そうですね。トリーシャたちは小さな依頼だって嫌がりませんけれど、ちゃんと適した依頼を選ぶのも大事なことですから」


 話を合わせておく。

 実際、トリーシャたち1級パーティーが受けるような依頼は、かなり遠方からの魔獣討伐ぐらいだ。

 しかも、かかるだろう旅費と討伐経費を考えると、報酬額が少なくて儲けがほとんどない。

 これではちょっと受けられないな。


「まぁ、こういう日もありますよ。また来ます」

「はい。道中お気をつけて」


 レティさんに見送られて、ギルドを出ようとしたその時だった。

 開けた扉の前に懐かしい姿があって、俺は言葉を失った。


 軽装防具と弓矢を身につけ、癖っ毛ショートを弾ませて、元気いっぱいの笑顔を浮かべた女性冒険者が、俺の横を通ってギルドに入っていく。

 

「あら、珍しい。お久しぶりね」

「えへへ。お久しぶりです。レティさん!」

「今日はどうしたの?」

「王都への護衛依頼だったんです。達成報告に来ました!」

「お疲れ様でした。では、証明書を見せてもらえるかしら?」


 依頼主の完了証明印を押した書類をレティさんが確認している間、女狩人は腰に付けた携帯バックから小さな飴玉を取り出して頬張った。

 そのまま特に変わっているわけでもないはずのギルド内を、楽しそうに見渡すその姿は、俺の記憶と寸分違わない。

 

 ついつい見つめていたから、すぐに気づかれてしまう。

 首を傾げて俺を見る、その仕草も変わらなかった。

 

「……えっと。もしかして飴玉ほしいですか?」

「いや、ごめん。ちょっと知り合いに似ていたものだから、驚いちゃって」

「あ、そうなんですか。お兄さんも冒険者ですよね?」

「ああ。まだ新米なんだけどね。俺はカズマっていうんだ。よろしく」

「あたし、マーニャっていいます。よろしく、カズマさん!」


 その狩人は、間違いなく前世界での俺の仲間、マーニャだった。


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