第11話 どうしたの、そんな変な顔をして

 言葉を選びながらトリーシャたちの話を促して、聞きだせた情報はこんな感じだった。


 3年前、魔族は魔王ラシュギを中心にまとまり、人族に対して侵略戦争を開始した。

 一進一退を続けていたが、徐々に人族は劣勢になり、いくつかの国は滅ぼされることになる。

 そこにある人物が現れ、仲間たちとともに秘密裏に魔族領に潜入し、魔王を倒すことに成功した。

 結果、魔族は全体的に能力が低下し、人族は逆転勝利。

 それが1年前のことだそうだ。


 大まかな流れは、俺が107回目の世界で経験したこととほぼ同じだ。

 前世界でも人族と魔族が戦争していて、俺はコリーヌたちと一緒に魔族の国に侵入して、魔王ラシュギを倒した。

 その直後にヴァクーナが俺を召喚し戻した訳だけど。

 おそらくあのまま行けば、107回目の世界も同じような歴史を歩むに違いない。


 前世界と今回の世界は双界の関係にあるから、似ているところが多くてもおかしくはない。

 実際、王都ロンディニムは前世界にもあったし、ブリュート王国が人族の代表国家に位置づけられていることも同じだ。


 しかし、いくら双界でもここまで流れがピッタリっていうのは、今までの経験上では覚えがない。

 魔王の名前もラシュギだし。

 聞いた話の限りでは、容貌や特徴も俺が知っているラシュギそのままだ。


 魔王を倒した英雄とその仲間たちについて、名前や詳細な情報は公表されずにいる。

 魔族が全滅したわけではないから、報復で狙われる可能性を考慮してのことらしい。

 まさかコリーヌ、ラドル、マーニャじゃないよな? って可能性は高いよなぁ。

 俺が果たした役割は一体誰が勤めたのだろう。


 双界は双界でも、ほぼコピーに近い関係にある世界同士なのかもしれない。

 そんな場合は、歴史や地理、国、文化どころか、生きている人々の名前や性格、人生まで似ているって、以前ヴァクーナが言っていた。


 ……ますます作為を感じるな。

 本番を前にして、ヴァクーナが女神様としての意地と誇りを見せたのか?


 しかし、どうしたものだろう。「本番の目的」がいまいち分からなくなってきた。


 今まで「魔王を倒すこと」に107回もチャレンジしてきたから、本番と言われたとき、てっきり魔王みたいな存在を倒すことが目的だと思い込んだのだけれど。


 よくよく思い返してみれば、ヴァクーナは「魔王よりよっぽど手強い相手」と言っていただけだ。


 手強いっていうのも、解釈がいろいろあるよな。

 単純に戦闘能力が高いのか。それとも数が多いのか。

 知略に優れていて、搦め手ばかりのイヤな相手なのか。

 それとも権威や立場が打倒しにくい相手なのか。人族の王家とか法王だったりすると、ものすごくやりにくいぞ。心情的にも無理なんだけど。

 まさか、こちらの世界で魔王を倒した「英雄」が相手、なんてことないよな?


 第一、目的は倒すことか?

 それとも封印とか?

 まさか説得や懐柔か?

 一体全体、なにをすればいいんだ?


 ここまでくると、いろいろと疑問と疑念が湧いてくる。


「カズマ。どうしたの、そんな変な顔をして」


 トリーシャが不思議そうな顔で尋ねてきた。

 おい。変な顔ってなんですか?


「ああ。王都に行ったらどこを見て回ろうかな、って悩んでいたんです」

「完全なお上りさんだね」

「実際、田舎者ですからね」

「田舎者ねぇ……。ま、いっか。そろそろ宿場町につくから降りる準備をしておいて。今夜はそこで宿を取るから」

「野宿すると思ってました」

「野宿もいいけど、アンタのお陰で仕事がスムーズに終わって余裕もあるからね。もともと討伐で消耗するだろうから、帰りはしっかりした宿で一泊する予定だったのよ」


 笑顔で準備をうながすトリーシャに、了解の意思を伝える。

 なるほど。確かに休息は必要だし、日程に余裕があるならちゃんとした宿泊施設を使ったほうが、心身ともに回復するだろう。


 ……俺としては少々、いや、かなり身の危険を感じるけどね。


 シンシアの視線が魔獣を通り越して、魔族の域に達し始めている。

 チャドは「とって食われることはない」って言ってたけど、フツーに骨の髄までしゃぶられそうなんですが。

 ちなみに間違っても性的な意味ではない。

 彼女の法術的探究心は、人族の三大欲求を完全無欠に駆逐するのだ。


 でも、今夜だけはなんとかしっかり眠りたいところなんだよな。切実に。



 おそらくヴァクーナが夢枕に立つだろうから。


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