第10話 きっちりはっきり説明しろよな!

 今、俺はトリーシャたちと一緒に大型の幌馬車に乗って、ロンディニムという都市を目指している。


 誘われた、というよりも強制連行に近い。


 1つ。魔族討伐にあれだけ貢献してくれた以上、報酬を払わないわけにはいかない。

 討伐報告の後、報奨を山分けするから、一緒に来てほしい。


 1つ。その法術に戦闘技術。とても興味深い。情報交換しないか?

 っていうか、その腕前を活かさないのはもったいない。うちの仲間になんない?


 トリーシャ、いきなり勧誘かよ。ちょっとうれしいけど、さ。


 そして、もう1つ。


 逃がさない、って言ったでしょ! 私と法術について語り明かしましょう。

 満足するまでつきまとうわよ。


 うん。最後の理由だけは思いっきりスルーしたいところだけれど、たぶん無理。

 この法術大好きっ娘は、おそらく討伐報告を放り出してでも、俺にくっついて来るよ。

 やばいぐらいに見つめてくる。いや、もう呪い殺すぐらいの視線です。


 ……別の世界にこんな魔眼を持ったモンスターがいたなぁ。


「まぁ、とって食いはしないから気にすんな。というより気にするだけ無駄だ。諦めろ」

「とっても役立つ助言に感謝……」


 チャドが苦笑いしながら、干し肉を投げてよこした。


 幌馬車の荷台には精霊術の付与がかけられているようで、揺れが少なく結構快適だ。

 やはり前世界と同じく精霊術による道具類が普及しているらしい。


 御者はイネスとブラムが交代で勤めていて、今はイネスの番。

 ブラムは荷台の隅で槍を抱えるようにして座り、目を閉じている。

 本当に寡黙な男だな。


「で、なんであんなところにいたの? しかも1人でさ。アンタなら確かになんとかできそうだけど、それにしたって1人は無謀よ?」


 トリーシャの疑問は当然だよな。ハリエットも勢い良く頷いている。


「いや、その、恥ずかしいんですが、単純に道に迷ったんですよ」

「はい?」


 俺は、もちろん誤魔化すことにした。


「俺、地図にも載ってないような辺境の小さな村から出てきたんですが、道に迷ってしまって。とにかく休めるところを捜していたら、あの廃墟に出たんです。とりあえず大きい建物を選んで入って休んでたんですが……」

「スレイブが戻ってきた、と?」

「そういうことです。あんな化物の寝床とは思っていなかったから、驚きました」

「……ふーん」


 はい、疑われてますね。

 でもさ。こういう時は胡散臭い理由のほうがいいと思うんだ。


 もっともらしい嘘ついたって、本当に根も葉もないから、いずれバレる。

 だったら、始めから信じられないようなことを言っておけば「なにか言えない事情があるのか?」と勝手に推測してくれるからね。

 もともと冒険者のような職種は身元がよく分からない人が多いし、訳ありも少なくない。

 そこを追求しすぎる輩は敬遠されるから、話したくない相手には聞かないのが暗黙の了解だ。


「ま、いいか。人それぞれよね」


 ほらね。

 トリーシャはリンゴのような赤い果物を一口かじると、話題を転じた。


「それよりも、法術と剣術。両方とも大したものね! しかもいい剣を持ってる。もしかして銘あり?」

「ええ。一応、アダマスって名がついてます」

「聞いたことないわね。剣匠は?」

「そのままアダマスって人ですよ。この剣の名というよりは、剣匠アダマスが鍛えた1本という意味ですから」

「それだけの業物を鍛える人なら、もっと世間に名が広がっていそうなものだけど」

「俺の村周辺じゃ有名だったんですけどね」

「ふーん。地図にも載らない辺境の村、ねぇ……」


 はい。2回目の「これ以上聞くなコール」を発信。無事、受信された模様です。

 そろそろ、質問し返したほうがいいかな?


「これから行くロンディニムってどんな感じですか?」

「初めて? カズって本当に辺境にいたのね」

「王都だからな。人も物も溢れているぞ。賑やかで華やかで、俺は好きだな」

「チャドはもともと騎士の出だから余計にそう思うんじゃない?」

「でもでも、あたしも大好きですよ! 賑やかっていいじゃないですか。もう元には戻らないんじゃないか、ってみんな思ってたんです。ホントによかったですよぅ」


 シンシアやチャドも混ざって会話が弾む。

 でも、ハリエットがちょっと気になることを言ったな。


「もう以前と変わらないぐらいに戻ったんですか?」

「いや、やっと8割ってとこか。でもなぁ。たった1年しか経っていないことを考えたら、すごい復興スピードだぜ?」

「そうですよ。遷都したほうが早いっていわれたぐらいなんですから」

「まぁねぇ。魔王が今も生きていたらと思うと、ゾッとするわ」


 ……へ?

 トリーシャ。今なんて言った?


 俺は慎重に言葉を選んで、さらに問いかけた。


「魔王、ですか……。もうそんなに経つんですね」

「ああ。英雄が魔王ラシュギを討ち取って1年。やっと平和ってやつを実感できるようになってきたな」

「とはいえ、今回みたいに力を取り戻してきた魔族もいるからね。まだまだ油断できないけど」

「そのために俺たちみたいな荒事専門のハンターがいるんだろ?」

「まぁね。お仕事があることはいいことだけどさ」

「もう! トリーシャさんはときどき不謹慎ですよぅ!」

「そういえば英雄も秘法術を得意としていたっていうわね。ぜひ話を聞いてみたかったわぁ」

「シアはホントそればっかりね」

「今だ名前が公表されていない救国の英雄、か。一体誰なんだろうな」


 盛り上がる皆を前に、俺は頭の中が真っ白になっていた。


 ……あー。えっと。

 もうどこからツッコんでいいのか分からないほど、ツッコミどころが満載なわけですが。


 とりあえず、女神様に物申す。

 きっちりはっきり説明しろよな! ヴァクーナ!


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