第7話 でもさ。アンタ、慣れてるでしょ?

 俺は小学校の頃から剣道を習っていて、三段を持っていたし、全国大会にもでたことがある。

 だから初めて召喚転生した時は、心のどこかでワクワクしていた。

 

 今まで積んできた練習の成果を試せる! って。


 結果。

 路上で遭遇した小鬼に文字通り瞬殺されて、ヴァクーナのもとに死に戻った。


 その後も何度か召喚転生、即死亡が続いて、俺はやっと悟る。


 今までの剣道の練習は、命がけのバトルでは役に立たたないこと。

 そして。


 それでもなお、俺にとって戦いで頼れる技術は剣道しかないってことを。


 


「……きたわね」


 つぶやきとともにトリーシャが右手を振ると、皆の表情が切り替わった。

 イネスとハリエット、そしてシンシアは神殿の柱の影に隠れ、前衛陣はフロアの中心に残る。


 この戦闘も予定通り、ってことか。なるほど、すぐに撤退しないはずだ。


 重戦士のチャドが大きな盾を構えて、真ん中を陣取った。

 その左にトリーシャ。右に俺。

 ブラムは皆から距離をとる。彼が遊撃戦力になるようだ。


「カズマ。もうとっくに巻き込んじゃってるからいまさらなんだけど、協力してくれるかな? もちろん報酬はきちんと払うわ」


 トリーシャは手甲の位置をなおし霊力を込めながら、そう問いかけてきた。


「連携が不安ですけど、それでもいいですか?」


 俺もまた着込んでいる馴染んだ軽鎧に、霊力を浸透させて付与効果を具現化させる。

 うん。ちゃんと防御効果がでているな。思った通りだ。


「そうね。確かに普通だったら、知らない人間をその場でパーティーに入れるなんて、褒められたもんじゃないわ」


 肩をすくめてそうぼやいたリーダーは、俺を見て面白そうに笑った。


「でもさ。アンタ、慣れてるでしょ?」


 次の瞬間、神殿の奥。俺が覚醒した祭壇の後ろあたりから凶悪な殺気が溢れ出てくる。

 まだ昼間のはずなのに、急激に周囲が暗くなったように感じるほど濃密な魔力。


 そう、魔力。人族に仇なす魔族の力。


「さっきのスレイブのマスターよ。今回の討伐目標。純粋な戦闘力ならスレイブのほうが上なんだけど……」

「魔力がすさまじいだろ? アイツのせいでこの街が崩壊したって話だ」


 いつでも飛び出せる体勢を取ったトリーシャの言葉を、チャドが引き継いだ。


 うん。確かにかなり強力な魔族だと思う。さっきの大蛇を従えるだけのことはあるな。

 いつもの召喚転生だったら、すっ飛んで逃げるレベルだ。


 でも、今回は違う。

 

 腰の剣を抜く。

 手に馴染む柄の感触。扱い慣れた長さと重さ。

 片手でも両手でも使えるバスタードソード。

 『名剣アダマス』

 前の世界で魔王ラシュギを倒すときに使った俺の愛剣だ。

 

 霊力を流し込み、付与効果を顕在化させる。

 鎧と同じく、なんの違和感もなく力が具現化する手応えを得た。


 明らかに今までの召喚転生と違う。


 装備が魔王討伐のときと同じだ。

 さっきの法術もイメージ通りに起動した。

 おそらく、俺はラシュギを倒したときと同じように動けるだろう。


 そうだ。今までと違って当たり前。

 俺は前の世界で死ななかった。 

 これが本来の召喚転生なのかもしれない。

 前回のスペックとスキル、さらに装備まで、かなり正確に再現し構築できるみたいだ。


 この状態なら、思う存分戦える!


「くるわよ!」


 トリーシャの面持ちが緊迫する。

 チャドが一歩前にでた。

 ブラムとイネスの気配が消える。

 追加の付与効果が俺たち前衛に施された。これはハリエットの補助法術だ。

 シンシアが霊力を練り始めたのを感じる。今度は適切な攻撃法術を使ってくれるかな?


 さて。

 このメンバー構成で、俺がするべきことはただ一つだ。


 アダマスを垂直にして右肩前に掲げる。剣道でいう八相の構え。

 左足を前に出し、そのまま少し前傾気味に腰を落として力を溜める。


 祭壇の床がはじけ飛び、おぞましい魔力をまとった黒い影が飛び出した。

 同時に、俺とトリーシャが一気に踏み込む。


 剣士ですって自己紹介した以上、アタッカー以外の役割があるか? いや、ない!

 

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