第6話 一応これでも剣士ですから
「さてっと。お互い、まだ名のってなかったよね」
半分消し炭になった元大蛇と戦場の後始末を手伝ったあと、俺は改めて彼女たちと向き合っていた。
彼女たちのパーティーは6人。
もっと多いかと思っていたけれど、戦術運用で誤認させられていたようだ。
それだけで、この人達の力量がわかるというもの。
常に最前線で戦っていた女の子が、溢れそうな興味を隠そうともせず俺を見る。
黒髪をポニーテールのように束ね、急所のみを守るように設計された機動性重視の軽装鎧とは裏腹に、重厚な力感をまとう手甲。
うわぁ。鎧も手甲も、いい付与が施されている。
これは思っていたよりも、さらに上のランクの人たちかもしれない。
「俺はカズマといいます。偶然とはいえ、助かりました。ありがとうございました」
俺は相手より先に名のることにした。
お礼を告げることも忘れない。微妙なニュアンスを含めて。
女の子たちは少し面食らったようだった。
「助かったのはこっちよ。私はトリーシャ。一応このパーティーのリーダーを勤めてるわ」
「俺はチャド。さっきはありがとうな」
トリーシャとともに、盾戦士も戸惑ったように名のる。
チャドは見たまんま戦士だ。盾と重鎧と片手斧。ゲームで言うならタンカー役だろう。
あの大蛇の一撃をくらっても片腕骨折で済ませるあたり、かなりの防御技術をもっていそうだ。
「私はブラム。ご助力に感謝を」
前衛組の最後は槍戦士。細面で落ち着いた雰囲気はむしろ法術士のような印象だけれど、俺はしっかり見ていた。
この人の槍術は半端ない。あのスピード重視の戦闘のなかで、常に大蛇の鱗の継ぎ目のみに攻撃を加えていた。
しかもできる限り、執拗に念入りに、同じ1か所にめがけて。
針の穴を通すような正確な攻撃を、長時間続ける技量と精神力。
見た目に騙されちゃいけない。この人、敵に回すと恐ろしいよ。
「あたしはハリエットです。あの、ホントにホントにありがとうございました! あたしがしくじったせいで討伐失敗するとこでした!」
「……イネス。アンタすごいな」
後衛の2人は、法術士と弓術士。
ハリエットは、全員がせいぜい20歳前後だと思われるこのパーティーのなかでも、一番若い印象を受ける。
いかにも白魔術士のようなローブを羽織り、法術強化用のロッドを持って、ひたすら頭を下げていた。
彼女が拘束術を担当したのか。
ハリエットは恐縮しているけど、あれはあれですごいイメージ強度だったと思う。しかも戦闘後にチャドの腕を癒やした治癒術は、はっきりきっぱり一流だ。
弓と矢筒を背負ったイネスは、神経質そうな細い目で俺を見定めるように観察している。
この人の弓術もあなどれない。ヒット・アンド・アウェイする前衛組への支援攻撃は、それはもう素晴らしいタイミングと正確性だった。
彼が後ろにいてくれるなら、安心して戦える。そう思わせるだけの技量を持ってる。
そして最後は、あのオーバーキラー。
黒と紺を基調にしたドレスローブを着て、赤みのかかったブロンドの髪と、人目を引くその容貌は、まさに正しく美しい! の一言なのだけど。
「ねぇ、あなた。見事な拘束術だったわね。ワイヤー3本に光属性と操作、ってことは4ワード? それであのイメージ強度が保てるなんてなかなかだわ。あなたの名前は聞いたことがないけれど、もしかしてまだ修行中なの? 誰から教わったの? ぜひお話が聞きたいわ。法術士同士、情報交換は必要と思うのよね。あ、秘伝や秘術まで教えてとは言わないわよ。でもでも、話したいなら聞くわ。ええ、もちろん些細なことだって大歓迎よ。だって法術を極めるには、どんなに小さな情報もけっして無駄にはならないものね! だから……」
「シーアーーー」
「は、はい! なぁに? トリーシャ」
「まず名のりなさいよ! ホントにアンタはまったく!」
「はい! ごめんなさい! 私はシンシア。シンシア・フォスター。親しい人はシアって呼ぶわ。なんなら、あなたも呼んでくれてかまわないわよ。優秀な法術士とは、ぜひ仲良くなりたいものね。私はなんて呼んだらいいかしら? カズ? そうね、カズがいいかしら? ね、これからカズって呼ぶわね」
……うん。オーバーキラー&マシンガントーカーの法術大好きっ娘って感じですね。
本当にありがとうございます。俺にとってはご褒美でもなんでもありません。
「シンシアさん」
「シ・ア!」
「……シアさん。ご期待には添えないかも」
「え、なんでどうして! 法術士同士、親睦を深めましょうよ! だって……」
「いや、俺、法術士ではなくて、一応これでも剣士ですから」
「「「はい?」」」
その場にいた人、みな口を揃えてツッコミをくれました。
そんなに驚くことかなぁ。
それより早く移動した方がいいと思う。
……嫌な気配が近づいてる。
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