第5話 シ、シアー! アンタやり過ぎーッ!
目の前で行われる、激しい大蛇討伐。
とりあえず、今のところ俺はいらない子みたいだから、戦場を迂回しながら見物することにした。
まだ召喚転生したばかりの身としては、できる限りの情報がほしい。
この世界の人族の戦闘能力はどのくらいか、とかね。
もしさっきの女の子が平均だとしたら、この世界の魔王ってシャレにならないほど強いと思うんだ。
……まぁ、ヴァクーナの言う「本番の目的」がまだ分からないから、なんとも言えないけれど。
移動しつつ、腰の剣と自分の霊力を確認する。
意識を内に向けて、人族の根源たるパワーを循環させてみる。
……うん。これって、やっぱり。
どうやら状況が好転してきたみたいだ。
少なくとも、この場で即死は回避できるはず。
もし、俺1人だったとしても。
「チャド! 引いて!」
常に先頭に立って戦っていた女の子の悲鳴のような叫びと、大蛇が拘束を無理矢理ほどき、尾を振るのは同時だった。
直撃をうけて文字通り吹き飛ぶ、盾を持った戦士らしき男。
俺は目標に向かって走り、霊力を展開した。
イメージワードは2。ネット。衝撃吸収。
法術で編んだ網で男を受け止めて、その勢いを殺し床に下ろす。
傷が痛いのか。突然の助っ人に驚いたのか。男はしかめっ面でこちらを睨んだ。
俺は急ぎ男の状況だけ確認する。
「大丈夫ですか? 怪我の程度は?」
「え? あ、ああ。左腕は使い物にならないが、なんとか……」
「すいません。他人への治癒術はあまり得意ではなくて。ゆっくりかけている暇はなさそうです」
「わかっている。十分だ」
男はすぐに意識を切り替えて、走り出した。
状況判断が早い。
あの左腕。よくても複雑骨折しているだろうに。
さらに盾で受け止めても、衝撃は内蔵にまで伝わっているはず。
壁に激突せずに済んだとはいえ、直後にあそこまで動けるのか。
格闘家の女の子といい、盾戦士といい、レベル高いなぁ。
感心しつつ、俺も走り出す。
光のロープから解放された大蛇は、その巨体を驚くほど自由自在に動かして法術攻撃を避けながら、前衛の戦士たちに対応している。
やっぱり何か特殊な感覚器官を持っているな。
でなければ、あそこまで正確に法術を避けられない。
目標に向ける霊力の焦点とか、感じることができるのか?
様子をうかがう俺に、絶叫に近い大声がかかる。
「そこのアンタ! 法術士なら拘束術をかけられるッ?」
あの女の子だ。衰えないスピードで攻撃をしながら、問いかけてきた。
きっとさっき使った法術をみていたんだろう。
盾戦士への指示もそうだけど、視野が広いな。戦場をよく見ている。
俺は行動で応えることにした。
高速で霊力を練り、思念を加えて具現化する。
イメージワードは4。ワイヤー。3。光属性。操作。
先程見た拘束術を参考にして、法術を編む。
周到に奇襲攻撃を準備してきた集団だ。だとしたら、さっきの拘束術を再現したほうがいいはず。
おそらく光属性があの大蛇の弱点なのだろう。
3本の光のワイヤーを大蛇へと放つ。
当然、敵は避けようとするが、それは織り込み済みだ。
着弾点が分からないはずの爆撃法術をかわすことができる相手だからな。
そのためにギリギリ4ワードを使って「操作」の概念を付与したんだよ。
イメージ強度は弱くなるけれど、光属性が弱点ならなんとかなるだろう。
光のワイヤーは俺の意思に従って、互いに交差し、空間を埋め、それこそ蛇のようにまとわりつく。
結果、より複雑に大蛇を絡め取ることに成功した。
「やるじゃない!」
もがく大蛇の顔面を、フルスイングで殴り飛ばしながら、女の子が輝くように笑った。
お褒めにあずかって光栄だね。
俺としては、彼女のパワーとスピードのほうが賞賛に値すると思うけれど。
さて、これで彼女たちの作戦はおそらく当初の状態に戻った。
このあと、最後の決定打が残されているはず。
あの大蛇、かなり打たれ強いと見た。
拘束された状態で、彼女の大打撃を受けているにもかかわらず、弱る気配がない。
蛇系のモンスターはどの世界でも大抵生命力と耐久力が高いからなぁ。
ついでにすっごく執念深いし……。
うわ、やな記憶が蘇りそうになった。
とにかく、今のままじゃジリ貧だ。
でも、これだけの準備を整えてきた集団が、この展開を予想しないわけがない。
必ずとどめとなる手段を用意しているはずだ。
「いきます! みんな離れて!」
神殿の入り口の方で、とてもきれいな声が響いた。
その場にいた前衛が一斉に離脱する。
同時に膨大な霊力が唸りをあげているのを感じた。
なるほど。今までのはすべて時間稼ぎか。
ものすごい霊力と、それを完全に制御し、圧縮する精神力。
ついでに概念付与も半端ない。イメージワードを5つ以上使ってないか? これ。
って、このイメージ強度で5以上!?
信じられない。コリーヌと同等か、それ以上の法術使いだ。
思わず唖然とした瞬間に、それは放たれた。
大蛇の弱点だろう光属性の大法術。
標的を中心に光の塊が6つ出現。それが一斉に超高密度のレーザーのような光線を照射した。
周囲一面、まぶたを閉じていても視神経が焼ききれるかと思うほどの光の洪水。
一瞬、影すら光に飲み込まれて消えたと錯覚しそうになったよ。
これはオーバーキルってやつじゃないかなぁ……。
「シ、シアーーー! アンタやり過ぎーーーッ!」
「ご、ごめんなさーーーい」
視界が戻らないなか、彼女の声がこだまする。
……だよなぁ。
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