第3話 ……うん、知ってた分かってた

 何度経験しても慣れないな、と思う。


 真っ暗な空間で魂の奥底まで探られて、肉体が構築されていく。

 この召喚転生の行程は、はっきり言ってかなり気持ちが悪い。




 何度か死に戻り(というのかは微妙だけれど)した後に、どういう仕組なのか、ヴァクーナに聞いたことがあった。


「うーん。細かく説明するとキリがないというか、貴方の認識力を超えてしまいますからね」


 いつもの如く笑顔を張りつかせた雪女もどき、もとい白き女神様は、そう言ったあとで鼻歌でも奏でるように説明した。


 曰く。魂はデータのようなものらしい。


 物質である肉体を持って平行世界を渡ることは、天文学的に膨大なエネルギーを必要とするし、互いの世界への影響が大きすぎてできない。

 しかし魂はデータなので、電気信号のようなイメージで世界の壁をすり抜けて、送り込むことができる。

 しかも、魂データは全世界共通。

 送られた魂を受諾した世界は、そのデータに適合した肉体を構築して、世界の理に組み込む。

 

 それが召喚転生。魂データを召喚して生に転じる、神の御業だ。


 ……って。それって、まるで。


「……オンラインゲームのキャラクターを作っているみたいだな」

「それは当然ですよ。まさにそのイメージで説明したんですから」

「なにそれ! 神の御業がMMORPGなのかよ!」

「違いますよ。貴方にはそのほうが文化的に分かりやすいでしょうから、例として使ったんです。実際イメージしやすいでしょ?」


 たしかにイメージはしやすいけど、なんかありがたみに欠けるなぁ、と思ったことを覚えている。


「なら、もう一度同じ世界に魂データを送ればいいんじゃないのか? そうすれば同じ世界に何度も召喚転生して効率的に技を鍛えられるんだけど」

「えっとですね。一度世界に組み込まれると、魂データにIDがつけられてしまうのですよ」

「……ID?」

「そうすると再度送っても、輪廻転生システムが貴方の魂IDを認識して、その世界で死んだ者として扱ってしまうんです。肉体の経験や記憶を消去して、普通に赤ちゃんから始めてしまいます。それじゃ私にとっても貴方にとってもまずいでしょ?」

「IDって……。ますますMMORPGみたいだな」

「ですから、たとえです。た・と・え!」


 まぁ、確かに「たとえ」だということは身をもって知っている。


 実際、ゲームじゃないからね。

 死ぬ時は痛いし苦しい。

 瞬殺されるならまだいいけれど、生き地獄のような状態を味わうこともあった。


 意識がある状態で生かしたまま、ゆっくりじっくりねぶるように消化して食らう植物とか。

 寄生して内側から徐々に身体を支配して、最後に自決させる魔虫とか。

 死を懇願するような無限の恐怖を植えつけ、七転八倒する獲物を見てほくそ笑む、マジ地獄の悪魔のようなモンスターとか。


 ……うん、やめよう。思い出しても何の意味もない。

 っていうか、本気で思い出したくない。

 心というか、魂が折れる。


 

 ああ。そろそろかな。身体感覚が戻ってきた。

 今回はどんなシチュエーションで覚醒するだろうか。

 結構、始めが肝心なのだ。

 

 覚醒パターンはいくつかあるけれど、最悪なのは魔物のような人族と敵対している種族の勢力圏や、砂漠とか極寒地のように装備なしでは生還が不可能と思える過酷な環境に放り出されたときだ。


 目的あって召喚したんだから、そんな無茶ぶりするわけないと思うだろ?

 そんなあなたは、まだまだヴァクーナのことが分かっていない。

 実際、召喚即死亡の経験のなかには、初期配置ミスのような原因が何度かあったからね。

 やるんだよ、あの雪女もどきは。


 前に1回、文句を言った時は。


「それはその世界のシステムが勝手にしたことですから。私のせいではありませんよー!」


 なんて言ってたけど。


 魂を司る女神様が目的あって召喚したのに、システム任せってどういうことだよ。

 俺に課題達成させる気があったのか、本気で疑いたくなる。


 それとも、俺に過酷な経験をさせて、修行させるためだったのだろうか。

 ……ないな。うん、ない。

 絶対そこまで考えてないよ。あの女神様は。


 今度は本番だといっていたのだから、初期配置ぐらいしっかりして欲しい。




 さて。召喚転生が完了したみたいだ。

 ゆっくりと目を開けてみる。


「……うん、知ってた分かってた」


 崩れかけた天井から、陽の光が幾条も差し込んできている。

 割れたステンドグラスに、ヒビが入った壁や床。

 廃墟と化した神殿のような場所。

 そして俺の前にある光景は。


 とぐろを巻いて寝そべる全長20mはありそうな、大蛇のような「なにか」だった。

 

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