第20話 救急の日
九月九日金曜日。今日は救急の日で、最寄り駅ではポケットティッシュが配られたり、AEDの使い方の講習会があるらしい。なぜ、そんなことをわたしが知っているのかというと、社長が万が一のときのために、AEDの講習を受けるから一緒に受けたい人は来てくれと朝になってから言い出したからだ。わたしは機械が苦手だから、参加しないようにしようと思った。しかし、「よし、誰もいないなら事務員の
駅には思っていたよりも人が集まっていて、社長とわたしはギリギリで午前の講習会に参加できることになった。
会場で、まずは見本を見せてもらってから、一人ずつ実技に移る。まずは心肺蘇生の方法からだった。一定のリズムを刻んで、心臓をマッサージするわけだが、これがとても疲れる。人の生き死にがかかっているときに、なんてことを言うのだと思われるかもしれないが、普段動かない事務職なんて、息が上がってしまうくらい疲れるのだ。
そして、AEDの講習に移った。
これも、手順どおりにすれば問題ないからと説明されたが、一回で使い方をきちんと覚えられたかというと、あやしい。わたしの機会音痴もあるのだろうなと思う。ちなみに社長は一度でほぼできていますね言われていた。
そのあとは、軽い雑談で終わり、パンフレットを渡された。
会社に帰って、どうだった?とお昼休みに同僚に聞かれて、「心臓マッサージは体力勝負かも」と、つい、言ってしまった。
「人を助けるんだもんね、大変なことだよね」と、言われて、その通りだと思った。
マイボトルのオレンジティーを飲む。少し、冷えていた。
午後になり、さっきのパンフレットは社員全員が読み、そのあとで会社に置かれることになった。わたしは、そのパンフレットがもし濡れてもいいように、ラミネート加工をした。今日は、うまく加工ができた方かなと、パンフレットを社長が指定した引き出しにしまう。
それから、電話の取次ぎなどをしていたら、もう退社の時間だった。
帰宅して、昨日のスープを温めながら、翔さんにメールをしてみることにした。
「こんばんは、りんです。
今日は、会社の社長と救急の日に行われた人命救助の講習会に参加してきました。
個人的には少し内容が難しく感じてしまいましたが、人の命を救うのが簡単な訳ではないですよね」
「こんばんは、翔です。
九月九日で、救急の日なんですね。
人命救助は、自動車の免許を取得したときに、自動車学校で受けたことがあります。
でも、かなり前ですね」
「車の免許をお持ちだったんですね。
社長に言われるがまま、ついて行ったのですが、貴重な経験だったのかもしれないですね」
「実際に使う日は、来ないほうがいいです。
でも、いざというときに、そのお手伝いくらいならできたほうがいいと、ぼくは思います」
「そうですね、お手伝いくらいならば、わたしにもできる気がしてきました。
翔さんは、明日も仕事ですよね?
日曜日はゆっくりと、休んでくださいね」
おなべが噴いているのにも気づかないくらい、夢中でメールをしていた。
火事になってからでは遅いから、これから、火を使いながら何かをするのはやめよう。
明日は、写真のプリントができるといいなと思った。
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