第13話 八月の終わり

 カレンダーをぼーっと眺めていて、わたしは今週で八月が終わるということに、ようやく気がついた。今月はなんだか忙しくて、いろいろあって、整形外科にまで通って、本当に濃密だった。お盆休みからまだそんなに経っていないんだよねと、心の中で独り言を繰り返していた。

 あの黄色い花びらをたくさんつけたミニひまわりも、もうそろそろ出荷されなくなるのかしら。あれは、今も眠り続ける彼との思い出の花だった。だからお墓参りのときにも、わたしは花束にして、持って行ったのだ。

 仕事中に、物思いにふけるわけにもいかず、カレンダーから目をそらした。

 今日は、整形外科に通院する日で、ちょうどヒビが入ってから一週間ということになる。痛みはまだあるが、少しずつよくなっている実感がある。

 退社後、わたしは整形外科へと向かう。

 自分の左足の裏に、レーザーをあてる治療をする。この治療もあと三週間くらいで、終わる予定だ。

 会計の順番がくるまでの時間はいつもテレビを見ている。夕方の天気予報を運がいいと見られるのだ。明日は曇りのち雨で、午後から雨が降るらしい。傘を忘れないようにしなくてはいけないから、玄関に置いておこうと思った。

 そのうち順番がやってきて、今日の会計は終わった。

 スーパーによって、いつもよりも多めに食材を買い込んで、膨らんだ買い物袋を左手に提げて歩く。それは頻繁にスーパーに通って、自分の足に負担をかけないようにするためのわたしなりの工夫だった。

 部屋について手を洗ってから、食材を冷蔵庫にしまう。

 入浴をすませてから、少し経ってから昨日の残りのカレーを、冷蔵庫から探してくる。そのカレーを温めてから、福神漬けを添える。市販のルーを使っているだけのカレーだが、なかなか美味しかった。

 カレーを食べてから一時間がたった頃だろうか。メールのチェックをしていると、翔さんからメールが届いていた。いつものように、タイトルはなかった。

「こんばんは、翔です。

 今日は週のはじまりの月曜日ですね。

 足のヒビのためにも、無理はせず今夜はゆっくり休んでください」

「こんばんは、りんです。

 そうですね、金曜日で八月が終わってしまうので、早いなと思っていたところです。

 足の痛みは、一週間前とくらべると、すこしずつ楽になっています。

 翔さんも、ゆっくり休んでください」

 メールが届き、翔さんからもう届いたのかと思っていたら、友人からのメールだった。

 こんばんはというタイトルからはじまっている。

「久しぶり!

 なんだか忙しくて、気づいたら八月だったよ。

 ところで、休みの予定はどう?

 今週末なんだけど、空いてたら久しぶりに会おうよ!」

 高校のときのクラスメイトの明恵あきえからのメールだった。

 わたしも、久しぶりだったし会いたいと思った。

 週末は今のところ何の予定もない。

「久しぶりだね!

 お盆休みがあったせいか、本当にあっという間に来月だよね。

 週末は、わたしも予定がないから、久しぶりに会いたいね!」

 メールを送信する。

「良かった、会えるね!

 それじゃあ、とりあえず駅前に集合でいいかな?

 映画を見に行こうよ!いくつか、見たいのがあるんだよね」

「いいよ!

 それじゃあ、駅前に集合ね。

 映画は何時ごろからがあるの?」

「書き忘れてた!

 ちょっと早いかもしれないけど、十時に待ち合わせれば映画には間に合うよ!」

「うん、じゃあそうしよう!

 今日はメールありがとう。

 楽しみにしているね!」

 ちょっと前のわたしよりも、何がきっかけだったのか、最近のわたしの生活は充実していると思う。おおげさかなとも思うが、そう考えずにはいられない。週末に何かしらの楽しみがあるというのが大きいのだろうと思う。

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