第12話 本当は

六花は今何故か追いかけれていた。


恥ずかしすぎて、祥の顔を見たとたん反対方向へ逃げていた。


それを祥が追いかけてきたのだ。


いつもなら簡単に逃げきれるのだか、いかんせん動悸息切れに加え、大きな屋敷はまだ把握していない場所も多い。


「待てって!」


病人とは思えない脚力で迫った祥によって壁ドン状態になってしまった。


あまりの近さに目が合ったとたん、顔が熱くなるのがわかる。


"ち、近い…"


思わず追いかけた祥だったが、特に用もない。


上目遣いで見つめられ、思考が停止する。


「……近い!」


沈黙に耐えきれず六花は思いっきり祥を突き飛ばしてしまった。


派手に倒れた祥に、我に返る。


「ご、ごめん、大丈夫?」


慌てて膝を付き手を伸ばそうとして、ためらっていると、その手を掴まれた。


反射的に逃げようとした。


「逃げないでくれ」


どこか寂しそうな表情の祥に胸が締め付けられる。


同時に久しぶりに触れたぬくもりに、ホッとする。


恥ずかしくて逃げたい気持ちと、もっと触れたいと思う気持ちが六花を惑わす。


「恥ずかしくて、どうしたら良いか、わからない」


最後の方は尻つぼみだった。うつむいた六花の顔は耳まで真っ赤だ。


「嫌われたのかと思った」


「違う!」


再び目が合う。


祥は笑っていた。


今までと同じ様に、つられて六花もぎこちないながらも微笑んでいた。


その瞬間、六花の中で何かがストンと落ちた気がした。


「祥の事が好き」


自然と言葉がこぼれ落ちていた。


祥はちょっと驚いたあと笑顔になる。


「知ってたよ」


六花はこの笑顔が好きだ。


祥が笑ってくれるだけで、世界が明るくなったように感じる。


自然と体か動き祥を抱き締めた。


初めて感じる人のぬくもりと匂い。


気持ちに気づいた時より更に愛しさが増してゆく。


生まれて初めて感じる幸せ。


しかし、六花は思い出す。


自分が何者であるかということ。


この屋敷にいる理由。


思い出した瞬間、背筋が凍るような衝撃が走る。


このまま共に生きて行けたら、どれ程幸せか。


だが組織は絶対に許さない。裏切り者を決して見逃す訳がない。


「ごめん」


言い残し、六花は屋敷を出て行った。


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