第11話 自覚

六花は今まで生きた中で一番困惑していた。


祥が倒れ、恥ずかしいくらい泣いた。


それ以来、祥を見ただけで動悸息切れが激しくなる。


祥の周りだけキラキラと輝いている様に見える。


運動不足で、視力でも落ちたのかと思ったが、何かが違う。


それとなく、料理人の筒井さんに相談してみた。


自分の事だとは伏せて。


「ズバリ、恋ね」


何故か、とても嬉しそうに断言する。


恋と言われても、動悸息切れを止めるすべはわからなかった。


むしろ、自覚したとたん更なる動悸に襲われる始末だ。


本人に自覚はなかったが、周囲はとっくに気づいていた。


目に見えて態度が変わったのだから。


はっきりと、恋だと分かって何か起こるかと期待したが、予想以上に六花がピュア過ぎて、今で以上に挙動不審になってしまった。


「俺、六花に嫌われたのかなぁ」


部屋の掃除に来ていたメイドの大山は思わず手を止めてしまった。


いつもなら、どんな会話をしながらでも完璧に仕事をこなすベテランだ。


「めっちゃ、避けられてる!」


それなりの付き合いだか、これほど落ち込んだのを見たのは初めてだった。


それ以前に六花の気持ちに気づいていないのが驚きだ。


天才でも恋愛については、鈍感らしい。


「…本当に気づかないんですか」


「この前も、声掛けようとしただけで逃げられた」


まだ日は高く、太陽が十分に部屋を明るくしているのに、祥の所だけどんよりとして見える。


そんな主の様子を見ていると、だんだん馬鹿らしくなってくる。


「逃げられたのならば、追いかければ良いのでは?」


適当に返したつもりだったが、祥は目からウロコと言わんばかりの勢いで立ち直った。


「そうか、なら善は急げだ!」


よく分からない言葉を残し、脱兎のごとく部屋を飛び出して行ったのだった。


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