第10話 病
頭が痛い。
昨夜何年ぶりかにないたせいか。
大声を出したわけでもない。
ただ、静かに涙が溢れて止まらなかったのだ。
目も腫れている。
朝食に向かう前に顔を洗って、多少腫れは引いたか。
自分が最後だと思って行くと、まだ祥が来ていなかった。
何時もは時間前に来ているのに。
庭師の
間もなくして、バタバタと慌ただしい足音。
「医者を!」
朝のゆったりとした空気が一瞬で緊張した。
直ぐに医者が駆けつけ、朝食どころではなくなった。
主治医によると、病におかされた体を酷使した、疲労のためだと診断された。
しばらく安静にと、きつく注意された。
「六花様申し訳ないのですが、看病をお願いできますか?」
執事の田中さんは柔らかな物腰で、とんでもないことを言い出す。
「私より、六花様の方が良いでしょうから」
その笑顔は有無を言わせない圧があった。
心配ではあったが、少々気まずい思いを抱きつつ、部屋へ行く。
大きなベッドの上に点滴を打たれ、静かに眠っていた。
少しホッとして静かにベッド近くの椅子に座る。
胸が上下するのを見て、さらにホッとした自分がいた。
何をするでもなく顔を見ていると、祥が目を覚ました。
「六花」
祥は名を呼び、笑顔を見せた。
その瞬間、パタパタと自分の手の甲に水滴が落ちた。
六花は自分が泣いていることに驚いていると、祥も驚いたようだった。
その場から去ろうとして祥に手首を捕まれた。
「六花!」
ピタリと動きを止め、溢れる涙を乱暴にぬぐう。
しかし、涙は継次々と溢れて止まらない。
祥に再び名を呼ばれたが、無言で首をふる。
再度呼ばれ、自由な左手で顔を隠すようにして祥へと向き合う。
見られたくなくて、下を向いて無を貫くと、手が離され動く音がした。
両手で頬を優しく包まれ、手をどける。
いつもより、顔色の悪い祥と目が合った。
「心配かけて、ごめん。泣くなよ」
苦笑しながら涙をぬぐってくれる。
そんな仕草が更に涙を誘発する。
思い出した感情が溢れ、顔をくしゃくしゃにして泣いた。
「ごめんて、俺六花の笑顔が見たい。それだけで病に勝てるんだよ」
優しい言葉に涙は更に溢れる。
「…わ、笑いかた…っ知らない」
ずっと力んで生きてきた。
笑う必要もなかった。
だから、皆が羨ましかった。
「こうやって、口の端を上げてごらん」
祥が六花の口を指でなぞり、笑顔の作り方を教える。
流れる涙で泣き笑いのようになっていた。
「ほら、拭いて」
少し涙が収まると、鼻水が出てしまう。
これじゃどっちが看病しているのかわからないと、タオルで顔を拭きながら祥が笑っている。
その時、無意識ではあったが六花は一瞬だけ微かに笑ったのだった。
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