第7話 名前

裏口の階段に座り庭を眺めていると、突然背後から人の気配に気づく。


とっさに仕込んでいたナイフを相手の喉元に突きつけた。


「そんな物騒なもの出すなよ」


そこに居たのは祥だった。


手には白つめくさの花冠を持っていた。


「背後から近づくの止めてくれたら、考える」


服の下にナイフを納める。


水色を基調とした、動きやすさ重視に作られた島国独特の着物に、下駄を身に付けている。


今までは黒一色だったが、祥がわざわざ似合う色で作ってくれたのだ。


洋服も用意されたが、中々慣れない。


特にワンピース。


オレンジを基調とした洋服はシンプルな作りでヒラヒラしていて、着る勇気がなかった。


「久しぶりに作ったんだ。うん、やっぱり可愛い」


白つめくさの花冠を頭に載せ、歯の浮くような言葉を平気で言う。


真っ白な髪に、白い花が似合う訳がない。


しかし、祥は本当に嬉しそうに笑う。


六花りっか


「…何よ」


突然名を呼ばれ心臓がバクバクと脈うつ。


名前を呼ばれ慣れていないからだと、自分に言い聞かせる。


「呼びたかっただけ」


言い残し、執事の田中さんに呼ばれて行ってしまった。


一人残された六花は再び階段に座り直し、膝に顔を埋める。


「何それ」


ずっと組織に入ってから呼ばれる名前なんてなかった。


個人を指すのは数字で、ずっと "6番" と呼ばれてきた。


六花とは祥がつけてくれた名前だ。


最初は何だか違和感があったが、愛着がわきつつある。


少しずつ六花の中で何かが変わり始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る