第6話 その胸に

大雨の中少女は、祥の屋敷前で様子をうかがっていた。


数件仕事を片付け、借りている部屋に帰らずなぜかここに来ていた。


雨雲で太陽は隠れていたが、まだ十分なほど明るい。


屋敷前の通りを人や車が行き交う。


雨で人通りは少なく、歩く人も傘を差していて、ずぶ濡れの少女を気に止める者はいなかった。


"何かやってるのか"


背を向け去ろうとした時、祥の声が少女を引き留めた。


「ずぶ濡れじゃん、早く中へ」


わざわざ外まで出て少女の手を取ろうとする。


「私にかまうな」


触れかけた手を払いのける。


見れば祥も傘を差してはいるが、大分濡れていた。


「いいから来い」


いつもとは違う、低く強い声。


祥は少女の手をしっかりと握り、屋敷まで強引に連れてゆく。


広い玄関を入ると、執事であろう男性が声をかけてきた。


執事にタオルと着替えを部屋まで頼んで、そのまま部屋まで連れてゆく。


簡単に振り払えるはずの手を少女は何故か拒めなかった。


久しぶりに触れた人の温もりに、忘れたはずの感情が沸き上がってくるようだった。


雨を吸ったフードを取られ、ふかふかのタオルで頭を包まれる。


「放っておけばいいじゃない」


「出来るわけないだろ。風邪引いたら大変だ。それに、あんな泣きそうな顔見たら放っておけないよ」


先ほどと違っていつもの調子で祥が答える。


別に泣きたいと思っていたつもりはない。


冷酷な目だと言われる少女の表情を、彼は泣いている様に見えたと言うのだ。


"やっぱり変態だ"


ほんのりと胸に灯がともったようだった。



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